6行まとめ
・「トリチウム水」とかつて呼ばれていた福島第一原発のタンクの「ALPS処理済水」はトリチウム以外の核種もたくさん残っていることが分かり、それは「二次処理をする」ということになっていた。
・「ALPS処理水」の処理の議論が大詰めになっているにも関わらず、二次処理の計画はまだ公表されていない。
・6月22日の筆者の質問に「今年度中に2000t程度」と口頭で回答されたのみ。
・しかし「ALPS処理水」には、今まで取り切れない核種だけでなく、測り切れていない核種もあることがわかった。ヨウ素129、カーボン14、テクネチウム99である。
・これらの核種は測定が難しく、2019年度までは東京電力はこの核種を測定できる測定員が1人しかおらず、この核種をよく把握できていなかった。2020年度は測定員を増やしたが、今度は測定に必要な計器が壊れ、外注している状況である。
・カーボン14はALPSで除去する対象の核種ではないため、ALPSに何度通しても、取り切れないことが予想される。RO装置で除去するというが果たしてうまくいくのか。なぜその重要な実験を議論の前にやらないのか。
関西弁まとめ
福島第一原発のタンクに溜まった汚染水→「処理水」の処理について、
2013年から議論していたけど、大詰め。
昔は「トリチウム水」言うてたけど、トリチウム以外の核種もたくさん残ってるやんけ! ということで「ALPS処理水」を襲名。
トリチウム以外はALPSで取れるて言うてたのに、どないすんの?
東京電力&経産省「ALPSにも一度通す『二次処理』したら取れる!」
それ、ほんまに取れるの? いつやんの? と言ってる間に小委員会も公聴会もご意見を伺う場も終わり、そろそろパブコメ募集も終了。
二次処理の計画って、どないなってんの?
東電によると、2000t程度の二次処理の実験を今年度中にするそう。
6月22日の東電会見で、やっと回答が返ってきてん。
この2000tは高濃度のもの。
今、配管の引き回しとか、タンクの配置とか詰めてんねんて。
ALPS処理水の前の段階、ストロンチウム処理水を全部ALPS処理してから、
二次処理の実験に入るそう。早くて今夏くらい、ってもう今やん!
規制庁が激おこやったテクネ99やヨウ素129は?
今年3月の原子力規制庁の監視・評価検討会で、規制委員や規制庁職員は東電にキレててん。
なんか以前から測定で不思議なとこがあって。
全βの値と、主要7核種のβ線の値の合計値が離れててんな。
これが意味するところは、捕捉できていないβ核種があるってこと。
それが、今年の3月の監視・評価検討会で
「測定できてへんかったんは、C(カーボン)14とTc(テクネチウム)99でしたわ! なんでかっていうと、これ測定するん難しくて、測定できる人間が一人しかおらへんかって。でも、もう人数増やしたから!」と東電が報告。
それを聞いて怒ったのは原子力規制庁。
「今まである意味、欠測やったということか」
「今までの説明は真っ赤な嘘か」
「ちゃんと福島県民にも説明せえ」
けれど、東電はまだ未回答、会見でも説明無し。
私が会見で質問しても口頭でちょろっと回答するのみ。
測定員だけでなく、計器も足らず。
そのうちに気になる不適合があって。
「放射性物質の質量分析計」の不具合。
5・6号のホットラボのも、化学分析棟のも、両方、壊れたみたい。
え? これって、あのカーボンとかテクネとか測るやつちゃうの?
東電「そう。でも週一回くらいしか使わへんし、必要なときは外注してる。」
つまり、去年まで人が足りなくて測られへんかって、
せっかく今年度は人を増やしたのに、今は計器が無いから福島第一で測られへんてことやん!!
そして、そんな説明は無いまま、「ALPS処理水」の議論は大詰めを迎えようとしています、むちゃくちゃやな!
そんな情報を追ってないまま、物知らずで豪語する政治家とか出てくるわけやわ!
「タンク水」の議論をずっと追って。
2013年12月の「第一回トリチウム水タスクフォース」から続いている、福島第一原発のタンク水の処理を巡っての議論が大詰めを迎えている。
当初「トリチウム水」と呼ばれていたが、トリチウム以外の核種も残っていることがわかり「ALPS処理水」と名を変える。
長年、この議論を追っていると、様々な問題点が解決されないまま、委員会の委員に不満を残したままということがよく分かる。
しかし、経産省エネ庁が作成した「報告書」だけ読んでもそれは記載されていない。(これは「ALPS処理水」だけでなく他の問題でもよくあることだが!)
なので、下記のような、情報不足による誤解が発生する。
福島以外の国内外の原子力施設でトリチウムを排水しているのは
(それも問題が無いとはいえないのだが)
一言でいって、原発事故を起こしてないからだ。
また、トリチウム以外の核種を、ほぼ除去しているからだ。
トリチウムの排水の告示濃度限度は1リットル中6万ベクレル。
福島第一原発以外の国内の原子力施設は今でもこの基準であるし、
他国の基準も数万ベクレル/Lである。
しかし現在、福島第一原発では、現時点でサブドレンや地下水バイパスの処理水を海洋放出しているが、「運用基準」はトリチウムは1500ベクレル/Lで、6万ベクレル/Lよりはるかに低い。
これは上記の政治家のツィートで書かれているように「差別」などでは全くない。
福島第一原発の敷地境界での追加放射線量を年1mSvに担保するため、タンクの海への排水、つまり液体廃棄物に割り当てられるのは年0.22mSvになる。
それを、トリチウム以外のセシウムや全βなどの核種の告示濃度限度の比で換算すると、トリチウムが海に排水できるのは1500Bq/Lとなるのである。
各国はICRPの考えに基づきトリチウムの排出基準を設けて、
https://twitter.com/hosono_54/status/1277200641320906755?s=20
現在も海洋放出を行っている。
上記の政治家のツィートには
>各国は… トリチウムの排出基準を設けて、現在も海洋放出を行っている。<
とあるが、それは各国が原発事故を起こしていないから、
トリチウム単体の排水の濃度限度のみを考慮すれば良いからである。
私が理解できないのは、福島の処理水の海洋放出に反対している人たちが、福島以外の国内外の海洋放出について沈黙していることだ。
https://twitter.com/hosono_54/status/1277200641320906755?s=20
福島の海洋放出にのみ反対するのは差別ではないか。
>福島以外の国内外の海洋放出について沈黙している <
それは原発事故を起こした原子力施設は、トリチウムの排水以外の気体廃棄物、直接線やスカイシャインなどの放射線の影響を考慮しないといけないので、
全く条件が違うからである。
>私が理解できないのは、<
それは貴殿が情報不足だから「理解できない」のである。
トリチウムの1500Bq/Lという運用基準は2014年から運用されている。
また小委員会でもたびたび議論にあがっているので、
一度でも議事録などを読めば、「理解」できたであろう。
以下は、この件を筆者が2018年にまとめた記事である。
(まさか、原発事故の「担当大臣」だった政治家がこんなに情報不足だとは思わなかった。
2011年の統合本部合同会見では、会見者であった彼とよく顔を合わせていたが、原発事故と離れていたので、情報に疎くなったのであろう。
それは構わないのだが、情報不足のまま、過去の「担当大臣」の肩書でもって「誤解」を拡散しないで頂きたい)
補足だが、タンクの置き場所についての小委員会の議論に関する記事もぜひ一読いただきたい。
小委員会の複数の委員は、最後まで、タンク保管の可能性を支持しており、現状で環境放出の議論に入るのは適当ではない、とたびたび発言していた。
二次処理はいつ? 本当にできる?
タンクの「処理水」を環境中に放出するかどうかの議論の中で、重要なのが、
「実際にどの程度まで汚染の濃度を低減できるか」である。
処理に関して、福島の方々の意見を伺う「公聴会」は2018年に開催された。その直前に、タンク水にはトリチウム以外の核種も高濃度で残っているケースもあると報じられ、そのことを問う意見も多かった。
この問いに関して、東京電力や経産省は「もう一度、ALPSに通すという二次処理をおこない、一度目に取り切れなかった核種を除去する」と説明していた。
しかし、小委員会が終わり、報告書がまとまり、公聴会の後の「ご意見を伺う場」が、コロナ禍で取材も傍聴もできない中、強引に開催され、パブリックコメントも終了しようとする現在、二次処理の計画が全く出てこない。
本当にトリチウム以外の核種が取り切れるかどうかの二次処理計画、その実験は環境放出という処理の議論の中で、最重要のはずだ。
筆者はずっと取材を続けているが、6月22日の東京電力会見で、
「今年度中に二次処理の実験をおこなう予定。
比較的濃度の高いものを2000t程度。
現在、配管の引き回しやタンクの設置など詳細を検討中。
ストロンチウム処理水の全量処理が終わった段階で二次処理の実験に入りたい。」
と回答が出てくる。
7月2日の会見では「今年の夏頃にはストロンチウム処理水の全量処理が終わるので二次処理の実験に入れるのではないか」と、東京電力・廃炉推進カンパニー代表、小野明氏からの回答を得た。
しかし、口頭での説明のみ、何の紙資料も無く、二次処理の実験の概要が見えないままである。
筆者はこの二次処理、取り切れない核種で気になることがあった。
それは取り切れないどころか、測り切れてない核種が存在することである。
規制庁「これまで欠測」「真っ赤な嘘」
今年3月の原子力規制庁の特定原子力施設監視・評価検討会で
「全β値と主要7核種合計値とのかい離調査結果について」という資料が出され、東京電力から説明があった。
今まで、測り切れていなかったβ核種があり、それがヨウ素129、カーボン14、テクネチウム99であるという報告であった。
測り切れていなかった理由は「この核種の測定は難しく、測定員不足」とのことで、2020年から測定員を増やしたということだが、この議論の大詰めになって、測定できていなかった核種があり、その理由が技術不足、マンパワー不足だとはどういうことだろうか。
規制庁での議事録を抜粋する。
木幡(東電)
http://www.nsr.go.jp/data/000308445.pdf
東京電力、木幡でございます。 まず昨年の6月の時点では、C、難測定核種なので、非常に特殊な技量が必要という状況 でございますが、そういった分析をできる要員が1名しかいなかったという実態がございます。今後、やはりタンクの中に不明核種があるという状況で、その調査を強化しなければならないという観点から、6月以降、Cを分析できる要員を増やすと、OJTによってCの分 析を行える人間を増やしてまいりました。具体的には、現時点で9名が分析できるという ところまで体制を強化してまいりました。
○木幡(東電)
http://www.nsr.go.jp/data/000308445.pdf
東京電力、木幡でございます。
…
このエネルギースペクトルを見れる人間というのが、これも昨年の6月段階では1名しか 存在しておりませんでしたが、今はこちら非常にマニアックな解析というか、評価をしな ければならないというところで、十分にまだ育て切ってはいないんですけれども、今3名ほどがエネルギーのスペクトルを見て何か異常がないかといったところを確認できるよう な体制となってございます。
○安井交渉官
http://www.nsr.go.jp/data/000308445.pdf
…
ちょっと、この辺の数字がきちっと出 てこないと、言ってみたら全ベータ測定値の主たる寄与度をもたらしていたCは、今まである意味、欠測であって、今回わかったけれども、じゃこれで一体Tcも入れて告示濃度上限値との関係はどうなるんだという、これが話の主たるところだと思いますので。
○伴委員
http://www.nsr.go.jp/data/000308445.pdf
その比が1を下回るかどうかということよりも、そもそもモニタリングをどう 考えているんですかという話があって、全ベータという非常に不可思議なものがあって、 その全ベータをこれまでは、以前はこの主要7核種のベータの寄与分だと言ってたんですよね。そしたら、それは真っ赤な嘘だったわけですよね。ほとんどカーボンじゃないですかと。テクノもちょっと入っているかもしれないけどみたいな、そういう世界になっちゃ ったわけですよね
一番寄与しているのはヨウ素の129です、線量に換算し たときに。だけどヨウ素の129だってはかりにくいというんだったらば、ガンマー放出核種をはかりたい。だから、その辺の考え方がどこまで整理されているんでしょうか。
○高坂原子力総括専門員
http://www.nsr.go.jp/data/000308445.pdf
今の件で、やはり県民の非常に興味のあるところです。とにかくALPS処理水に不明確な核種が入っているということ自体が、非常に不安に思われるので、 ALPS処理水の分析は続けていっていただきたい。今、伴先生がまとめていただいたように、 今までのモニタリングのやり方は問題なかったかどうかとか、あるいは7核種分析値と全 β値の乖離等の問題については分析結果からこういうふうに判断しているとか、それを受けて今後どうするのか、ALPS処理水のモニタリングについて全体をまとめて、県民に分かり易いように説明いただきたい。
○小野(東電)
http://www.nsr.go.jp/data/000308445.pdf
東京電力の小野でございます。 いろいろと御心配をおかけして申し訳ございません。我々としても全ベータの値のちょ っと乖離があるということを気づいて、ちょっとその後の対応が少し我々としては遅かっ たというふうに思っています。
ちなみに、この状況の説明は、県民にも、会見でもまだおこなわれていない。
筆者が質問を続けているが、口頭で回答するのみ、会見者自体も内容を把握しておらず、「確認して回答する」のあとに回答が出てくる状況である。
測定の方針は2020年7月でも規制庁に「未回答」
下記は最新の監視・評価検討会の資料である。
7月時点で
「ALPS 処理済水の分析について、告示濃度限度比へ の寄与の大きさも含めて、測定対象とする核種選定に係る全体的な方針を示すこと」という原子力規制庁のリクエストに、東京電力は「未回答」の状態である。
測定員不足だけでなく、計器も壊れて外注
東京電力の「不適合資料」を日々チェックする筆者は気になる案件を見つけた。
「質量分析計」の不具合である。
東電会見で確認すると、質量分析計は、使用頻度は週に1、2度とのこと。詳細を問うと、テクネチウム99やカーボン14などの測定時に使うとのことであった。
5・6号ホットラボと科学分析棟にそれぞれ質量分析計はあったが、現在、両方とも使用できず、社外へ分析を依頼しているとのことであった。
つまり、やっと測定員不足を補ったのに、現在は、計器の不具合で外注している状況なのである。
カーボン14は、除去できるのか?
取り切れていないのではなく、測り切れていなかった核種の中で、筆者が気になるのはカーボン14である。
なぜかというと、そもそもALPSで除去する対象の核種では無かったからだ。
ALPSは、対象核種に応じた吸着材などで除去する設備である。
ALPSで除去する核種は62核種だが、そこにそもそもカーボン14は含まれていないのだ。
対象の62核種は下記である。
ALPSにもう一度通すという二次処理をしても、カーボン14は除去できないではないか? どうやって除去するのか、と問う筆者に、廃炉推進カンパニー小野明氏は
「確かにカーボン14はALPSでは除去できない。RO(逆浸透膜)装置を用いて除去する」
ROにかける圧力の問題もあるが、本当にカーボン14は除去できるのだろうか?
そもそも、ALPSに通す前に、RO装置に通しているのに。
汚染水の処理の行程を筆者の過去記事から引用する。
滞留水:建屋地下の高濃度汚染水
http://oshidori-makoken.com/?p=3585
<原子炉内の溶け落ちた核燃料に直接触れた冷却水が地下に流れ落ちているため非常に高濃度>
↓↓
【セシウム吸着装置(キュリオンまたはサリー)】
<おもにセシウムを数万分の1に除去>
↓↓
【淡水化装置】→→4割がRO処理水(淡水)<原子炉にもう一度戻して冷却水となる>
↓↓
6割が濃縮塩水
<ALPSが順調に稼働しなかったため、高濃度の汚染水をタンクに貯め続けることになり、リスクを下げるためストロンチウム処理装置に通して、ストロンチウム処理水となっているケースもある>
↓↓
【多核種除去装置:ALPS】
<62核種除去。トリチウムだけは処理できない>
↓↓
ALPS処理水(通称トリチウム水)
ALPSに通す前の「淡水化装置」である逆浸透膜装置に通すという二次処理をするため、カーボン14は除去できるという説明であるが、可能だろうか?
「ALPS処理水」に残っているトリチウム以外の核種は二次処理できると説明しながら、実はまだ二次処理の実験はなされていない。計画の説明もない。
そして、除去できていなかった核種だけではなく、そもそも技術不足のため、測定できていなかった核種も2020年になって判明した。
本当に二次処理でトリチウム以外の核種が取り切れるのかの実証実験が行われないまま、
今まで測定できていなかった核種の測定方針が出されないまま、
タンク水の議論が終わり、処理方法が決められようとしている。
訂正履歴
2020/7/13 16:15 タイトル部分【タンク水】を【ALPS処理水】に訂正
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