3行まとめ
・2015年4月5月18日、福島県県民健康調査検討委員会が開催された。
・小児甲状腺検査の先行検査の評価について、甲状腺評価部会の中間とりまとめが報告された。
・そこには、3月24日の中間とりまとめ「案」では無かった「数十倍のオーダーで多い」という文章が加えられていた。
県民健康調査検討委員会について
4月5月18日、福島市杉妻会館にて、第19回県民健康調査検討委員会が開催された。
県民健康調査とは、原発事故後の福島県民への様々な調査である。
県民健康調査
2011年3月11日から4か月間の行動記録から外部被ばく線量を推定する「基本調査」、
18才以下の県民に2年に1度甲状腺エコー検査をする「甲状腺検査」
避難区域と、基本調査から外部被ばく線量が高かったと推定される住民に向けての「健康診査」
その他、こころの健康度に関する調査、妊産婦に関する調査の、計5つの調査である。
甲状腺評価部会の中間とりまとめ「数十倍のオーダー」
筆者は2011年からのこの検討委員会を取材している。
どの調査についても、様々な疑問、問題点があるととらえており、たびたび記事を書いている。
4月5月18日の第19回検討委員会で配布された資料を見て、筆者はアッと驚いた。
甲状腺評価部会の「中間取りまとめ」が、3月24日に取材した際の「中間取りまとめ案」とは大きく違っていたからである。
甲状腺評価部会について
この検討委員会の中に、甲状腺評価部会というものが立ち上がったのは平成25年11月。
チェルノブイリ原発事故で、唯一被ばくと因果関係があるとされた小児甲状腺がん。
その小児甲状腺がんの調査において、評価する部会として検討委員会とは別に、立ち上がった部会である。
甲状腺評価部会の設置要綱を抜粋する。
第1条
「県民健康管理調査」検討委員会(以下、「委員会」という。)設置要綱第5条の 規定に基づき、
「県民健康管理調査」甲状腺検査について、病理、臨床、疫学等の観点か ら専門的知見を背景とした議論を深め、
適切な評価を行っていくため、「甲状腺検査評価 部会」(以下「部会」という。)を設置する。
甲状腺評価部会の中間とりまとめ
4月5月18日の第19回県民健康調査検討委員会に提出された中間取りまとめは下記である。
「こうした検査結果に関しては、我が国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い。」
これを見て筆者は驚いたのである。
3月24日に開催された、第6回甲状腺評価部会で中間取りまとめの案が出され、議論された。
筆者はこちらも取材したが、その中間取りまとめ案にはこのような文章は無く、評価部会の議論は短くすぐに閉会してしまったからである。
甲状腺評価部会の計6回の議論は、主に「過剰診断」についてのものが多かった。
特に、取りまとめされる6回に近づけば近づくほど、過剰診断、過剰診療による不利益についての議論が多かったように思える。
過剰診断、不利益を主張する若干名の研究者と、診断・手術した方々は適切な手術なのだから、その言葉は不適当だという議論。
筆者は部会終わりの記者会見でたびたび質問したが、その後、部会の先生から逆にぶら下がられてこう言われたこともある。
「大丈夫。過剰診断を主張する意見も必要なんだ。
検査は重要で必要なもので、しかし反対意見があってこそ、議論が深まり、正当性を問うことができる。」
取りまとめ案が出たあと、部会の委員の数名の方々から、個人的な見解をメールで頂いたが、それも様々な内容だった。
案ではなく正式なものとして挙げられたものは、この「先行検査で得られた検査結果、対応、治療についての評価」が最も大きく違っていた。
案では、過剰診断、不利益について言及し、しかし県民の不安解消の面から検査の続行を、となっている。
しかし、正式報告では、被ばくによる過剰発生か過剰診断か、恐らく過剰診断であろうが、とにかく罹患統計から推定される有病数の数十倍のオーダーで多い、と評価しているのである。
その他の「案」と「正式」の相違点
1.先行検査で得られた検査結果、対応、治療についての評価 | 大きく違う。違いは前述のとおり。 |
2.放射線の残響評価 | ほぼ同じ |
3.医療費の公費負担 | ほぼ同じ |
4.対象者の追跡 | ほぼ同じ |
5.検査結果の開示 | ほぼ同じ |
6.今後の甲状腺検査 | 「案」には無く、「正式」に追加される |
追加された「6.今後の甲状腺検査」は下記である。
今回の原子力発電所事故は、福島県民に、「不要な被ばく」に加え、「不要だ ったかもしれない甲状腺がんの診断・治療」のリスク負担をもたらしている。
と、しながらも、
しかし、甲状腺検査については、事故による被ばくにより、将来、甲状腺がん が発生する可能性が否定できないこと、
という文章は、やはり筆者は驚いた。原発事故後、様々な検討会、学会、シンポジウムを取材してきたが、どのような議論があれ、
「原発事故による被ばくは影響無い、健康への被害は無い」ということに無理やり結論づけていく様を2011年から見てきたからである。
不安の解消などから検査を受けたいと いう多数県民の意向もあること、さらには、事故の影響による甲状腺がんの増 加の有無を疫学的に検証し、県民ならびに国内外に示す必要があることなどを 考慮する必要があると考える 。
ここも、今までの議論は、健康への影響は無いが、不安解消のための健康調査を、という結論だったのが、少し内容が変わってきたことを感じさせた。
この中間取りまとめが報告された検討委員会での反発
この中間とりまとめに関する議論を全て書き起こしたものはこちらである。
そこから抜粋する。
清水修二座長代行
「…推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い。」
という文言がありますけども、
あの、この委員会の中でこの数値を巡って、「想定内だった」。
というようなね、そういう見方も、示されているんですけれども。
清水一雄部会長には、検討委員会に限らず、様々な場面で取材したことがある。
「原発事故による被ばくの影響は無い、と個人的には思ってはいるが、
そのような先入観を持っての調査は科学的ではない。
ただ、チェルノブイリ原発事故後の小児甲状腺がんの手術に自分自身も携わったし、データもよく見た。
通常発生時の甲状腺がんは、男女比を見ると女性が多いが、
原発事故後の小児甲状腺がんは男児の割合が、通常発生時より増えていた。
福島での調査も、男児の割合が少し多いことが懸念といえば懸念である」
との発言をたびたび聞いている。
そして、この委員会中、津金委員の発言も印象深い。
「健康への影響を考えるには、前段として、線量調査とその暴露調査の2つが必要である。
その後に、健康調査へ進むことができる。
毎回言っていることだが、その暴露調査がどのくらい確からしいのか、本来は評価すべきこと。」
いつまでもされない内部被ばく調査
筆者はこの調査に関して、甲状腺がんの悪性ないし悪性疑いと診断された方々の詳細な線量評価をなぜしないのか、
とたびたび質問している。
100人強の詳細な調査はそれほど手間のかからないことである。評価方法は議論をかさねなければいけないが。
(ちなみに、原発事故後、4か月たってからのWBC測定は、甲状腺がんと因果関係があるヨウ素131の評価には意味が無い。
半減期8日のヨウ素131は、暴露してからできるだけ早く測定せねばならない。
80日、半減期を10回過ぎれば1024分の1に減衰するヨウ素131は、4か月以上もたってから始めたWBCでは測定できない。
にも関わらず、WBCの評価から、健康への影響は無い、と説明する研究者がおられることは筆者は不思議でならない。
セシウムによる評価しかできず、セシウム:ヨウ素比も一定ではないので推計できないにも関わらず、だからである。)
悪性ないし悪性疑いと診断された方々の線量評価は、県民健康調査の基本調査のみである。
これは3月11日から4か月間の行動記録からの、大まかな外部被ばく線量評価である。
食物からの経口被ばく、内部被ばく調査はほとんどされていない。
「3月11日から31日まで、自分の畑や果樹園、家庭菜園等で作られた作物や、飼育している家畜の乳などをどれくらい摂りましたか」
という簡易な自己申告の調査のみである。
しかし、道の駅やスーパーで販売していたものでも、高汚染されたものは見つかっている。
(現在でも、道の駅や直売所で基準を超えたキノコ・山菜類などは検出されている)
内部被ばくの調査は、簡易なものだけでいいのか?
2011年3月末までの短期間の調査でいいのか?
今からでもできるだけ調査するべきではないか?
毎回、質問するたびに、星北斗座長から
「何度も何度も回答しているが。それは重要な課題。ヨウ素による内部被ばく調査は必要だとうは思う。今、検討しているところ。」
との回答のみである。この回答を何年も出されるため、今回は重ねて質問した。
「2011年の記憶は、時間が経つにつれ薄れていく。時間が経過したあと調査できるのか?
いったい、どれくらいの期間検討するのか? 今すぐにできるだけの調査はするべきではないか?」
すると、「どうやって何ができるのか考えているところ。」とまた同じことを繰り返されるのみであった。
過剰診断であろうが、何が原因であろうが、甲状腺がんが数十倍のオーダーで多い、ということは事実である。
それが原発事故によるものなのかどうか、他に原因があるのか、今後も調査が必要である。
被ばくが原因かどうかは、線量評価が重要であるが、まだそれも十分なされていない、というのが現状である。