三行トピック
・福島第一で増え続ける汚染水を貯留するタンク。その置き場は本当に無いのか?
・現状、小委員会で行われている議論は情報公開されているか?
・結論ありき、アリバイ作りの小委員会ではないのか?(→後編に)
(一部訂正 2019/10/30
本文中、議事要旨のみで議事録がない、としていましたが、次の回に議事録が出ていました。
訂正するとともに、確認不備をお詫びいたします。)
「タンクを置く場所が無い」という前提はそもそも正しいのか?
ALPS(多核種除去設備)を通した汚染水を貯留しているタンクは、福島第一原発に増え続けている。
そのタンクの処理についての議論が高まっている。(この議論自体は経産省で2013年から始まっている。後述。)
「海外の原子力施設や、国内の別の原発は『トリチウム水』を海洋放出している」という主張をよく目にする。
(ちなみにその主張が一部間違っている部分、
福島第一では、他の原子力施設のような濃度で『トリチウム水』を海洋放出できないということは
筆者の過去記事「トリチウム1500Bq/Lは厳しすぎるのではなく、他の核種や線源があるから」を参照してほしい)
タンクの処理、海洋放出の論考の前提には「福島第一原発敷地内にタンクを置く余裕がない」となっている。
当然のように、その前提を受け入れている論考をよく目にする。
この前提は、正しいのか?
そして、タンク処理の議論をしている経産省の「多核種除去設備等処理の取扱いに関する小委員会」(以降、小委員会)ではどのような議論になっているのか?
福島では「タンク保管を」
2018年8月は、福島県の富岡町、郡山市、そして東京でタンク水の処理に関する公聴会が開かれた。
筆者は全ての公聴会を取材した。各会場、14人、14人、16人の計44人が意見を述べ、
そのうち2名だけが全量測定を前提に海洋放出を認め、95%が環境中への放出に反対であった。
そして、ほとんどの意見が「汚染水はタンク保管を」であった。
「トリチウムの半減期は12年なので、36年も保管すれば8分の1になる。
せめてそのくらいの期間、保管しては?」
「原子力を推進するときは地元に金をばらまいて、汚染水を処理するときはもっともコストの安い方法を取るのか?」
「本当に飲んでも安全というなら、東京の辰巳のプールに『トリチウム水』を入れて、
それで復興オリンピックをすればいい。できないだろう? それを福島の海にまくというのか。」
そのような意見が相次いだ。
小委員会では「タンク保管の敷地はなぜ無い?」
小委員会での議論は、「タンク保管の敷地は本当に無いのか?」 である。
2019年8月の第13回小委員会での委員のコメントを紹介する。
辰巳菊子委員(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント)
「実際に福島第一原発に視察に行くと、まだ敷地内にタンクのスペースがあるように思う。
今日の資料にそこの部分が無いのは、委員に意図的に見せたくないように感じる。」
下記が、資料のタンクエリアの部分。福島第一原発の敷地の南半分のエリアである。
森田貴己委員(中央水産研究所)
「東京電力の資料は福島第一の全体の地図がどこにもない。おもてなし感がない」
下記が福島第一の全体図である。
全体図の上に、「敷地が無い」というタンクエリアのマップを乗せる。
福島第一の全体図を見てほしい。
元々、福島第一原発は7,8号機も建設予定で、双葉町側に広い用地を取得していた。
その双葉町側、北側(図の左半分)には「土捨場」「新土捨場(予定)」という広いエリアがある。
東京電力は「敷地内で設備の建設の際に出た土の捨て場、土は敷地外に出せない」と説明。
すると森田委員は
「土は敷地外に出せず、水は敷地外に出せるのか。それは一般的に理解されないのではないか」
小山良太委員(福島大学)
「敷地を確保するのが一番早いのでは。福島第一の周囲に環境省が中間貯蔵施設を作るために敷地を保有している。
現地視察のときも質問したが、『それはできない、道義的に許されない』と言われたが。
でも、そもそも原発事故が道義的に許されないことで…」
現在、福島第一原発の周囲16平方キロメートルという広大な敷地が、放射性廃棄物の中間貯蔵施設として用意され、
福島県内のフレコンバッグの中身が運び込まれている。(下記)
辰巳委員
「小山委員と同意見。視察で見ると、敷地の外に環境省の中間貯蔵施設がある。
国として全体を検討すべきではないか?」
関谷直也委員(東京大学)
「汚染水の処理、なぜ今決めなければいけないのか。復興は全体として考えるべき。
安全な土を敷地内に保管して、汚染水を敷地外にというのはわからない。」
中間貯蔵施設、福島第一原発、タンクエリアのマップを重ねると下記のようになる。
この図を見ると、小委員会の委員たちの「本当にタンクの敷地が無いのか?」という疑問が明解にわかるのではないだろうか。
情報公開しない経産省
さて、このような議論が、なぜあまり外に出ていないのか。
それは情報公開しない経産省の在り方も大きいと筆者は思う。
この小委員会に限らないが、経産省の全ての検討会は、冒頭の頭撮りのみで、撮影・録音不可である。
上記の頭撮りの撮影が数分許可されているのみで、あとは全てのメディアが撮影不可である。
このとき筆者はスイスからの取材カメラマンと同行したのだが、彼女らはとても驚いていた。
「なぜメディアはカメラを数分で片づけ帰るのか。これでは公開の議論とはいえないではないか。」
そして、この日の小委員会の「議事概要」が下記である。
筆者が紹介したような委員のコメントが並んでいる。
(議事録は、次の回に出ております。議事要旨のみではありません。訂正いたします。2019/10/30)
しかし。
「議事概要」は「議事録」ではない。
つまり、誰がどのような意見を述べたのか、わからないのだ。
そして小委員会の「議事概要」を見ていると、重要なコメントが丸められていることも多々ある。
撮影・録音も不可、議事録も無い。
これでは、なかなか小委員会の議論の実情が外には伝わらない。
報道の記者が座っているが、何年にも渡る委員会・前段のタスクフォースの議論を取材し続けているメディアは少ない。
数時間続く難しい議論の間、居眠りをする記者も多い。
(もちろん、少数ではあるが、この問題を追い続けている記者もいる)
そして、今、海外から、汚染水の海洋放出の問題に関して疑義が出ている。
その論拠の一つに「情報公開がなされていない」というものがある。
この小委員会の重要な議論が、撮影・中継禁止で、議事録も無い状態で、情報公開がなされているといえるだろうか?
そして、前述した委員のコメントにもあるとおり、この小委員会ではたびたび「説明の不備」「資料の不備」が指摘されている。
昨年、「トリチウム水」と言いながら、実はトリチウム以外の核種も多く含まれていたことなどもあった。
筆者は、委員から、大気中に放出しているトリチウムの量を尋ねられ、資料のリンクを送ったことがある。
「経産省に聞いても、『資料が無い』と言って教えてくれなかった。なんだ、おしどりに聞いたほうが早かったのか。
海に捨てる前提で、その他の情報は資料も作らないし、質問しても答えてくれないように思う」とのことであった。
タンク保管の敷地については、以前から委員の疑問が出ており
山本一良委員長(名古屋大学)
「福島第一の北側の広い土地の理由は以前の視察でも疑問が出ていた。それが今日の資料にあったら良かったなと思うが…」
と司会の委員長もコメントしていた。
筆者は何年もこの小委員会を取材しているが、このように、資料や説明の不備ばかりで、議論は進んでいない印象だ。
これが、世界に注目される「多核種除去設備等処理の取扱いに関する小委員会」の実態である。
では、誰が海洋放出をしたがっているのか
(後半に続く)