4行まとめ
・最初に海洋放出される予定の「ALPS処理水」の分析結果が出た。
・トリチウムの次に多い核種はヨウ素129である。元々ヨウ素129は取り切れないことは分かっていた。
(告示濃度限度比0.28のうち0.22、つまりトリチウム以外の残存する核種のうち78.6%がヨウ素129である)
・ヨウ素129は、告示濃度9Bq/Lのうち2Bq/Lの濃度のものを希釈して海洋投棄することになる。
・ヨウ素129の半減期は1570万年である。将来的に、問題になるのはヨウ素129ではないだろうか?
(トリチウムの半減期は12年である)
最初の海洋投棄する予定の「ALPS処理水」の排水前分析結果
6/22にB系の測定・確認用タンクの排水前分析結果が公表された。
これが最初に海洋投棄予定の「ALPS処理水」の分析結果である。
ちなみにC系タンクは6/26にサンプリングして現在分析中、
A系タンクは7/10にサンプリングしたばかりである。
今後、このフォーマットで排水前の分析結果が公表されるので、解説する。
1枚目:29核種の分析結果
ALPSの除去対象核種は63核種であったが、トリチウム以外の29核種が測定対象となった。
測定対象核種から外れたものと、新たに加えたものを含め、39核種は東京電力が「自主的に」測定している。
(その自主測定の39核種の結果は3枚目となる)
(※29核種と39核種についての考え方は記事末尾を参照)
1枚目の分析結果は、トリチウム以外の告示濃度限度比の総和が1未満になっていることを確認する。
今回の結果は「0.28」となっている。
告示濃度限度比の総和について
この考え方は、「ALPS処理水」の海洋投棄に際して新たに決められたものである。
環境中に排水する限度である「告示濃度」は、排水中の核種が1種類の場合に、それぞれ定められている値である。
では、ALPS処理水のように、複数の核種が混合する汚染水の排水に関してはどうするか。
そこで出てきた考え方が「告示濃度限度比の総和」である。
例えばセシウム134は告示濃度限度が60Bq/Lである。
限度いっぱい、60Bq/L含まれていれば 60/60で告示濃度限度比は1となる。
半分の30Bq/Lであれば、30/60で告示濃度限度比は0.5である。
このような考え方で、様々な放射性物質が、それぞれの告示濃度限度に対して、どれくらい含まれているかを「告示濃度限度比」とし、それを足し合わせた「総和」が、「1未満」となったものを「ALPS処理水」と称する。
(ちなみに、告示濃度限度比の総和が1以上のものを「ALPS処理途上水」と呼ぶことに2021/4に決まった)
2枚目:トリチウム濃度(希釈の割合を決定)
2枚目はトリチウム濃度である。
ALPSで除去できないトリチウムの濃度を測定し、その値から希釈割合を定める。
タンクに貯留されているALPS処理水のトリチウム濃度は平均約 73 万 Bq/Lとされており、
低濃度のものから海洋投棄する計画になっている。
(高濃度のものは、海洋投棄を後回しにして、半減期が何度か過ぎるのを待つ計画。)
この14万Bq/Lというのは、ALPS処理水の中で、非常に低濃度の部類になる。
700Bq/Lになるまでどの程度、海水希釈するか、2枚目のトリチウム濃度で決定する。
3枚目:自主測定の39核種
3枚目は、前述した自主測定の39核種である。
4枚目:放射性物質以外の分析結果
4枚目は、ホウ素や大腸菌、ヒ素や水銀など、放射性物質以外の排水に係る水質分析である。
ヨウ素129
さて、ヨウ素129である。
告示濃度限度比の総和が0.28で1以下で「放出基準を満たしている」とはいうものの、
その総和0.28のうち、0.22がヨウ素129である。
ALPS処理水に残存しているトリチウム以外の放射性物質のうち、約8割がヨウ素129ということである。
ヨウ素129は告示濃度限度が9Bq/Lと低く、しかし2Bq/Lも残存しているので、告示濃度限度比が高くなる。
次に告示濃度限度比が高いものはストロンチウム90で(半減期28.8年)
告示濃度限度が30Bq/Lのうち、残存は0.41Bq/L、告示濃度限度比は0.014である。
3番目に告示濃度限度比が高いものは炭素14(C14、カーボン14)で、(半減期5730年)
告示濃度が2000Bq/Lのうち、残存が14Bq/L、告示濃度限度比は0.0071である。
将来、もっとも環境中に残存するのはヨウ素129では?
ヨウ素129は前述したとおり、半減期が1570万年である。
1570万年経って、やっと半分になる。
トリチウムの半減期は12年、24年で4分の1,36年で8分の1,48年で16分の1となる。
(なのでトリチウムが高濃度の「ALPS処理水」は20年後くらいに処理をし、自然減衰を待ってから海洋投棄をする計画である)
(今すぐ環境放出せずに、トリチウムの半減期が後、何回か過ぎるまでタンク貯留すればどうか、という意見が、ALPS処理水小委員会で委員からたびたび出されたことも付け加えておく。)
トリチウムは120年で1024分の1となり、1200万年で…(筆者が計算を試みたがすぐに答えが出ず申し訳ない)
ほぼ存在しないに等しい値となることは確かである。
しかし、ヨウ素129は1570万年でやっと半分である。
数百年後に問題となるのは、トリチウムではなくヨウ素129ではないだろうか?
筆者は、東京電力の会見後に、東電広報に問うた。
ーー告示濃度限度比の総和のうち、ヨウ素129がほとんどを占めている。
東電:ヨウ素129は様々な形態で存在し、ALPSで取り切れないことは元々分かっている。
ヨウ素129の告示濃度限度は9Bq/Lで元々厳しいので、2Bq/Lの濃度だと告示濃度限度比がどうしても大きくなる。
ーーALPS処理水にもっとも多く含まれるのはトリチウムだが、半減期は12年である。
数百年後など長いスパンで考えたときに、もっとも環境に影響を与えるのはヨウ素129では?
東電:告示濃度限度でそのあたりは評価している。
ーー違う!告示濃度限度は、人間が70年間平均の、毎日2L、その濃度の水を飲み続けた場合、平均の線量率が1年あたり1mSvに達する濃度のはず。数百年後の影響評価は告示濃度限度に含まれないはずだ。
東電:おっしゃるとおり。言い過ぎた。訂正する。
ーー告示濃度限度はあくまでも、「人間が70年飲む」という評価から作られたもの。半減期1570万年のヨウ素129を放出し続け、100年後、200年後、300年後の環境影響に対しての評価はあるか・
東電:そのような視点からの評価はない。法律で課せられていないので。あくまでも法律で課せられているのは
告示濃度なので。
新たに加わったモニタリング:海藻のヨウ素129
2022/3には、ALPS処理水海洋投棄に関わるモニタリング計画に、海藻のヨウ素129も分析していくことが加わった。
セシウム、ストロンチウム、トリチウムなどの核種は従来からモニタリング対象の核種であり、
測定箇所を増やすモニタリング強化である。
が、2022年に、新たにモニタリング対象に加わった核種は、ヨウ素129のみである。
ヨウ素129がトリチウムに次いで残存する核種であり、告示濃度限度比が低く、半減期が長く、
体内に入れば甲状腺に蓄積されることから、海藻もモニタリングすることになった、と説明を受けた。
ヨウ素129は、環境放出の議論の際は「欠測」していた
ALPS処理水の環境放出の議論がなされていたALPS処理水小委員会(経産省)の最終回は、2020年1月末である。
最終報告書が出たのは同2月。
しかし同3月に、原子力規制庁の監視・評価検討会で出された報告を聞いて筆者は仰天した。
「実は、ヨウ素129など、難測定核種は、測定不足、技術不足のため、今まで測定できていませんでした」
というものだったのだ。当時の筆者の記事は下記である。
まとめ
「ALPS処理水」の海洋投棄に関して、ALPSで除去できない核種のトリチウムだけではなく、
ヨウ素129による影響、問題ももっと議論されるべきではないだろうか。
また、ALPS処理水だけではなく、ここ数年来続いているセシウムによる魚類の汚染の問題もある。
(これに関しては筆者は改めて記事をまとめる)
現在の魚類のセシウム汚染の問題が、解明・解決できていない東京電力に、ALPS処理水海洋投棄を任せても良いのだろうか?
また、ALPS処理水の海洋放出に関して、筆者はトリチウム水タスクフォース、ALPS処理水小委員会、原子力規制庁の検討会、東京電力会見と取材を重ねているが、十分な議論が重ねられたとは思えない。
恣意的な報告書を鵜呑みにするだけではなく、それぞれが情報収集して、議論し、判断に加わることが重要だと考える。
半減期1570万年の放射性物質を海洋投棄していくのだから。
参照
※29核種と39核種についての考え方の資料リンク
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