3行まとめ
・6/5に港湾内のクロソイ18,000Bq/kgのものが検出された。
・ここ数年、港湾内でも、福島県沖でも、セシウム汚染された魚が増えている。
・「ALPS処理水」海洋投棄の前に、この現在進行形の魚のセシウム汚染を解決すべきではないだろうか
訂正履歴
2023/7/16 22:30
訂正前)それにも関わらず、2022年、2023年にも港湾買いで基準値超えの
訂正後)それにも関わらず、2022年、2023年にも港湾外で、基準値超えや自主基準値超えの
港湾内のクロソイ 18,000Bq/kg
2023/6/5の東電会見にて、福島第一港湾内のクロソイに、18,000Bq/kgという高濃度のものが見つかり、
速報として公表された。
会見でサイズを質問したところ、体長は30.5㎝、重量は384gであった。
ちなみに7/13の東電会見にて、当該のクロソイの耳石を確認したところ、
4歳のクロソイだったという追加情報が得られた。
今までの(速報)は10の2乗レベル
通常、月末に東京電力は福島第一の港湾内の魚介類の分析結果をまとめて公表する。
しかし、高い値のものが出た場合、(速報)として、随時、公表する。
筆者はこのクロソイの速報には驚いた。
10の4乗レベル、数万レベルだったからだ。
いままでの速報は10の2乗レベル、数百レベルだった。
いきなり2桁も高いものが出たのだ。
下記はここ数年の(速報)資料抜粋。10の2乗、数百レベルである。
速報レベルだったはずの数百レベルは、いつのまにか通常の値に
しかし最近になって、10の2乗、数百レベルの魚は、港湾内で、いつのまにか多数出てくるようになってしまった。
魚介類の分析結果 2023/5/29公表分と、6/26公表分(下記資料)から、
10の2乗レベル以上のものを抜き出したもの(図表①②)を示す。
図表①②中の全長と重量は、筆者が会見中に東京電力から引き出した数値である。
図表① 2023/5/29公表分より、10の2乗レベル以上の魚
採取日 | 試料名 | Cs合計 | 全長 | 重量 | 採取地点 |
2023/4/24 | クロソイ(筋肉)No.1 | 120 Bq/kg | 32.5 cm | 530 g | 港湾内(北防波堤付近) |
2023/4/10 | マコガレイ(筋肉)No.4 | 320 Bq/kg | 48.5 cm | 1106 g | 港湾内(北防波堤付近) |
2023/4/25 | クロソイ(筋肉)No.1 | 130 Bq/kg | 31.5 cm | 424 g | 港湾内(港湾口付近) |
2023/4/11 | マコガレイ(筋肉)No.4 | 910 Bq/kg | 39.5 cm | 558 g | 港湾内(港湾口付近) |
2023/4/12 | エゾイソアイナメ(筋肉)No.1 | 370 Bq/kg | 38 cm | 480 g | 港湾内(東波除堤北側) |
2023/4/28 | クロソイ(筋肉)No.1 | 770 Bq/kg | 29 cm | 326 g | 港湾内(東波除堤南側) |
2023/4/27 | アイナメ(筋肉)No.1 | 1200 Bq/kg | 32 cm | 384 g | 港湾内(1~4号取水路開渠) |
2023/4/13 | クロソイ(筋肉)No.1 | 760 Bq/kg | 30.5 cm | 368 g | 港湾内(1~4号取水路開渠) |
図表② 2023/6/26公表分より、10の2乗レベル以上の魚
採取日 | 試料名 | Cs合計 | 全長 | 重量 | 採取地点 |
2023/5/31 | スズキ(筋肉)No.1 | 480 Bq/kg | 42.5 cm | 630 g | 港湾内(北防波堤付近) |
2023/5/3 | タケノコメバル(筋肉)No.1 | 230 Bq/kg | 37 cm | 882 g | 港湾内(北防波堤付近) |
2023/5/12 | タケノコメバル(筋肉)No.2 | 250 Bq/kg | 33 cm | 650 g | 港湾内(北防波堤付近) |
2023/5/9 | クロソイ(筋肉)No.1 | 570 Bq/kg | 30 cm | 350 g | 港湾内(港湾口付近) |
2023/5/13 | マコガレイ(筋肉)No.7 | 480 Bq/kg | 42 cm | 778 g | 港湾内(港湾口付近) |
2023/5/25 | アイナメ(筋肉)No.1 | 960 Bq/kg | 37 cm | 652 g | 港湾内(1~4号取水路開渠) |
2023/5/3 | クロソイ(筋肉)No.1 | 450 Bq/kg | 31 cm | 374 g | 港湾内(1~4号取水路開渠) |
2023/5/18 | クロソイ(筋肉)No.2 ※ | 18000 Bq/kg | 30.5 cm | 384 g | 港湾内(1~4号取水路開渠) |
以前のように、10の2乗レベルの魚を速報で出していたら、常に速報を出さないといけないくらい、
10の2乗レベルは日常になってしまっているのだ。
それについて、東京電力は「港湾内の魚の採取量を増やしたから」と説明する。
なぜ港湾内の魚の採取量を増やしたのか。
数年前から、福島第一港湾内ではなく港湾外、福島県沖で、基準値を超えた魚が複数、見つかっているからである。
それらは港湾内から逃げ出したものと評価されており、そのため、東京電力は港湾内の魚の採取量を増やしたのだ。
ここ数年の港湾外の魚のセシウム汚染
下記は、2022/10/25にセミナーで発表された、「福島第一原発事故後の水産物の検査について」という資料の一部である。水産庁研究指導課長、長谷川裕康氏の発表である。
「2015年度以降、基準値を上回ったのは4例のみ」
その4例というのは以下である。
2019/1/31(2018年度) | コモンカスべ | 161Bq/kg |
2021/2/22(2020年度) | クロソイ | 500Bq/kg |
2021/4/1(2021年度) | クロソイ | 270Bq/kg |
2022/1/26 (2021年度) | クロソイ | 1373Bq/kg |
事故直後ではなく、なぜか近年になって、基準値超えの魚が福島県沖で採取されているのだ。
この基準値超えの表に、出荷停止と解除の情報、採取場所も付け加える。
2019/1/31 | コモンカスべ (広野町沖) | 161Bq/kg | 基準値超えは 2015/3イシガレイ以来4年ぶり |
2019/2/7 | コモンカスべを出荷停止 | ||
2020/2/25 | コモンカスべを解除し、全ての魚種で出荷制限解除 | ||
2021/2/22 | クロソイ (新地町沖) | 500Bq/kg | 2019/1以来2年ぶり。 県漁連が出荷自粛。 |
2021/4/1 | クロソイ (南相馬市鹿島区沖) | 270Bq/kg | |
2021/4/19 | クロソイを出荷停止。 | ||
2021/12/1 | クロソイを解除。 | ||
2022/1/26 | クロソイ (相馬市沖) | 1373Bq/kg | |
2022/2/8 | クロソイ3度めの出荷停止。 | ||
2022/4 | 3件のクロソイの耳石に強い放射線、港湾内から逃げ出した? | ||
2023/2 | スズキ (いわき市沖) | 85.5Bq/kg | 県漁連の自主基準超え |
ちなみに、福島県漁連は自主基準の50Bq/kgを超える魚種があると
その日、揚がったものは全て回収して、安全性が確認されるまで出荷自粛する。
そして検体数を増やすなど検査を強化し、検出限界値未満が続くまで出荷自粛を継続する。
また、魚種ごとに検査して同25ベクレル以上の魚が見つかると、
県水産海洋研究センターで再度、詳細検査をおこなう。
2021/2/22に500Bq/kgのクロソイが見つかり、県漁連は出荷自粛をしたが、
厚労省からの出荷制限がかけられたのは、2匹目の基準値超えのクロソイ270Bq/kgが見つかった後の4/19である。
国の対応は遅いので、福島県漁連は、自主的に出荷自粛をして信頼性を高めようとしている。
また、2022/2/8に、3回目のクロソイの出荷制限が課せられてから、今もまだ解除はされていない。
そんな中、今年2月に、85.5Bq/kgのスズキが採取され、国の基準値は超えていないが、
県漁連の自主基準を超えたため、出荷自粛されている。
このような状態、魚のセシウム汚染が現在も続いている中で、
ALPS処理水の海洋投棄が行われようとしていることについて
福島県漁連は、国や東京電力に怒り心頭なのはもっともである。
福島県沖の基準値超えの魚は、福島第一の港湾から逃げ出した!?
2022/4に、国の水産資源研究所は、2021-2022の基準値を超えた3検体のクロソイの耳石を調べた結果、
強い放射線を計測し、福島第一の港湾内に生息していた可能性が高い、と発表した。
そして、東京電力は、港湾内の魚が港湾外へ逃げ出さないよう対策(刺し網を増やすなど)を取ったり、
港湾内の魚の採取量を増やしているのである。
しかし、その対策は2019年、2021年に港湾外で基準値超えの魚が見つかったときから行われているのだが、
それにも関わらず、2022年、2023年にも港湾外で基準値超えや自主基準値超えの魚が見つかっているのだ。
また、東京電力は、港湾内の海底土の汚染度が高いため、港湾内に生息する魚が汚染される、と説明する。
しかし、今でも、海に告示濃度限度を超えた汚染水は流れている様々な実績がある。
2021/3に、物揚げ場排水路の警報が鳴り、高濃度の放射性物質が港湾に流出した。
廃棄物を保管していたコンテナが腐食し、放射性物質を高濃度に含むゲル状の廃棄物が排水路を伝って港湾に流れたのだ。
そして、汚染された地下水が港湾内外の海に直接流れ込むルートがあるのでは、と指摘する研究者もいる。
また、排水路のうち、K排水路は、降雨のたびに、告示濃度を超えた「雨水」を港湾に流し続けている。
下記は、直近の放射線データの概要6月分(7/7公表)である。
黄緑の四角、K排水路の値が、全βもセシウム137も高いことがお分かりいただけるだろうか。
K排水路から海への汚染水流入
ちなみに、K排水路から、汚染水が海に流れていることについて、東京電力に認めさせたのは筆者である。
福島第一作業員の方から情報提供があり、K排水路から告示濃度を超えたもの汚染水を海に流しているが、
「雨水」扱いにしており、測定しているのに、その値を公表していない、とリークがあった。
筆者は、2014年からその値を質問し続けたが「測定していない」と東京電力は主張し続けた。
しかし、その測定値は存在し、告示濃度を超えたものを海に流していることを認めた。
その際に「お詫び会見」があり、今後は、福島第一で測定した放射性物質の値は全て公表するということになった。
2015/2/26の会見での筆者の追及を一部抜粋する。
(現在は字幕が付いていない状態だが、後ほど、字幕を付ける予定である)
見どころは、中央に座っている東電廃炉カンパニープレジデントである増田氏がちっとも回答せずに、
左右の会見者にマイクを押し付けているところと、手前の菅野氏の回答である。
菅野:雨水という言葉を使ったのは、この排水路が雨水を流すための排水路だったので、あのー汚染水が流れて…あの、なんというのでしょうね、管理しなければならないという対象に入っていなかったという認識がひとつあります。
(うっかり、汚染水、と口走ってしまい、慌てて訂正をする部分も興味深い。)
菅野:濃度が他の排水路と比べて高いというところはありましたが、
なぜこの排水路の濃度が高いのかという調査に執着してしまって、
それが管理対象、あの、報告しなければいけない、というところまで頭が回らなかった、という状況でございます。
その点に対しましては、非常に申し訳なかったと申し上げさせて頂いているところでございます。
K排水路で降雨のたびに、高濃度の雨水、汚染水が港湾へ流出していることを正式に東京電力がやっと認めたのは2015年で、
それはもちろん事故直後から続いており、現在も続いている。
けれど、情報がなかなか発表されないこと、隠蔽されがちなことは、
12年取材を継続している筆者はよく分かっている。
この2015年にK排水路の汚染を認めた会見は何ら特別ではない。
同じような東京電力の酷い対応はたびたび今も繰り返されている。
まとめ
港湾内の魚のセシウム汚染、港湾外の魚のセシウム汚染は、ここ数年になぜか増加している。
しかし、その原因は解明されておらず、対策も不十分である。
「ALPS処理水」海洋投棄の前に、ここ数年続いている魚のセシウム汚染を解明し、
対策を取るべきではないだろうか?
それも出来ずして、「ALPS処理水」をコントロールしながら海洋投棄することは、
国や東京電力の能力的に可能なのだろうか?
また何か問題があってもなかなか公表されなかったり、うっかり失敗してしまったり、
という「いつもの」東京電力の対応が予想されるばかりである。
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