3行まとめ
・福島第一原発のWBC(ホールボディカウンタ)室は無人で、
替え玉による内部被ばく測定が繰り返されていた。
・今年2月の替え玉発覚は自己申告で、それが無ければ東電は今も気付いていなかった。
・替え玉だけでなく、IDカードの管理が不十分で誰でも持ち出せたということは、テロ対策としても大問題!!!
関西弁まとめ
(長いので読みやすい要約をつけました)
【東電の発表】
・WBC(ホールボディカウンタ)で、替え玉で内部被ばく測定してた件、調べたら、けっこうあったわ!
・トータルで31件、なりすまされたのは15名、なりすましたのは9名。
・2016年4月からWBC室が無人やったから、気付かんかってんな。
・今年の2月に「替え玉してしまいました!」て言いだしてくれた人がおらんかったら、今後も続いてたと思うわ。
・元請けが、IDカードの管理が杜撰で、誰でも取っていけたから、自分のだけでなく、他人のIDカード持って福島第一に入って、WBCの測定しててんて。
→IDカードの管理が杜撰!? ベルギーのテロでは、原発作業員が殺害されてIDカードが奪われてたやん。ID偽造して原発入ること計画されてたんちゃうかって言われてたけど。福島第一は、IDカード取り放題で大丈夫なん???
無人WBCで替え玉受検が横行
福島第一原発では、2016年4月から、WBC室は無人だった。
そのため、他人のIDカードを使い、内部被ばく測定をすることが繰り返されていた。
25日に調査結果が出され、計31件の替え玉測定があったことが分かった。
発端は今年2月の「替え玉自己申告」
今年2月20日に、WBCの替え玉で測定をした作業員から、「不適切な行為をした」と自己申告があったことが、今回の発端である。
電離放射線障害防止規則では、3ヶ月に一度、WBCによる内部被ばくの測定が求められている。
連絡のつかない20代男性作業員の労働資格が切れることを心配して、別の作業員がなりすましてWBC測定をした。しかし、その後、事の重大さを感じ、自ら「他者になりすまし測定をした」と報告をした。
(2/25の東電会見では、替え玉の協力企業とは、元請け「ウツエバルブサービス」の二次請け、と説明)
そして、ここから、同様の事例がないか、調査が始まり、5月25日にその調査結果が出たというわけである。
替え玉事例は31件。本来の測定者は15名、なりすましたのは9名。
調査は、入退域管理棟のゲート通過記録と、WBC測定記録を照合して行われた。
WBC受験記録があるのに、ゲートの通過記録がない、ということは、替え玉が疑われる事例ということだ。
替え玉は、複数のIDカードを持ったまま、ゲートを自分のIDカードで通過し、その後、WBCは、他者のもので受検したというわけだ。
調査の結果、新たに30件が見つかり、ヒアリングの結果、14名の替え玉を8名が行っていたことがわかった。
なりすまされた回数がもっとも多い方は5回であった。全ての内訳は下記である。3ヶ月に1回の測定を考えると、長期間、なりすましが繰り返されていたことが分かる。
関係請負企業 | データ対象者人数(なりすまされた人) | なりすまされた回数 |
D社 | 4名 | 5回、3回、2回、2回 |
E社 | 3名 | 1回 |
F社 | 1名 | 2回 |
G社 | 1名 | 1回 |
H社(B社の下請け) | 4名 | 3回、3回、1回、2回 |
H社(C社の下請け) | 1名 | 3回 |
なりすました回数については、現在、東京電力に取材しており、回答を待っている。
また、なりすまされた14名のうち、本人が認識していたのは3名、知らないうちになりすまされていたのは11名である。
WBC替え玉受検が行われた期間は、2016年11月から、2020年1月である。
2016年4月にWBC室が無人になってから、半年ほどで替え玉が始まったことがわかる。
(2020年に自己申告により、替え玉が発覚してからは、WBC室に警備員が配置され、替え玉が行われないようにしているという。)
2月の自己申告が無ければ、まだまだ続いていた
前述したとおり、この調査が始まったのは、自己申告がきっかけである。
2月に問題が発覚しなければ、この30件は出てこなかったのだ。
そして、今後も続いていたであろうことも東京電力は認めた。
筆者は会見で下記のような質疑をした。
ーー自己申告での発覚がなければ何年も気付いていなかったことになるが、適切だったのか。常習の方がいたのに、何年もわからなかったのか。
東京電力「その点についてはご指摘のとおり。
2月19日にこの件が確認ができなければ、まだしばらくこの状態が続いていたと考えている。
・元請けのIDカード管理が甘かった
・サマータイム、早朝作業の運用を踏まえて、24時間無人でWBC測定できるようにしていた
このあたりが原因。」
IDカードの管理がゆるゆる→テロ対策は?
WBCが無人だったとともに、元請け企業が、IDカードの管理が杜撰だったことも問題である。
本人でなくても、他者のIDカードを持ち出せる状態にあったのだ。
下記の資料で「当該元請け企業は、許可証を適切に管理しておらず」とある。
その「当該元請け企業」は何社か、と筆者は質問した。すると驚くべき回答が返ってきた。
IDカードを適切に管理していなかった元請け企業は、A社、B社、C社、全てだというのだ。
筆者は驚いて、それはたまたまなのか、福島第一の通常の実態がそうなっているのか、調査はしたのか、と質問をした。
すると、東京電力としては、適切に管理して頂くようお願いをしているが、現状どうなっているかは、確認する、とのことであった。
IDカードはテロリストが狙うもの
IDカードのこの杜撰な管理状態、そして管理状況を東京電力が把握していない状態に、筆者は驚いた。
なぜなら、2016年に死傷者300人を出したベルギーの連続テロの際、ティアンジュ原発の作業員が殺害され、IDカードが奪われ、ティアンジュ原発もテロリストの標的になっていると厳重警戒されていたのだ。
(筆者は2017年にティアンジュ原発を取材した。)
IDカードが奪われ、それが偽造されれば、テロリストが原発に入ることができる。
IDカードは厳重に管理されるもの、と思っていた筆者は、「誰でも持ち出せる状態」になっていたことに驚いた。
WBC替え玉受検ではなく、この杜撰な状態が何年も放置されていることに驚いたのだ。
「記録レベル未満」の被曝は無かったことに
ちなみに、このWBC替え玉受検で、内部被ばく評価値の最大のものは
1.14mSv×10^-3であった。
「記録レベル(2mSv)未満は切り捨て」有意な被ばくは無しとされる。
この件とは別件だが、最近は福島第一原発で、顔面汚染による内部被ばくの事故が多い。今年になって3件発生している。
2月6日の顔面汚染は、鼻腔内に放射性物質が付着しており、それを調べると(鼻スミア測定)、全β核種、つまりストロンチウム90などを吸い込んだと推定されている。
内部被ばくの預託線量は1.18mSvと評価されたが、記録レベル未満ということで、記録に残らず、無かったことになる。
つまり、記録レベル2mSv未満まで、毎回、内部被ばくしたとしても、何の記録にも残らず、被ばくは無かったことになるのだ。
原子力発電を続けるということは、このような運用を受け入れるということである。
(筆者自身は受け入れられないし、親しい方々や、遠い第三者がこのような状況になるのも受け入れられない。せめて「記録レベル未満」と切り捨てず、どれくらい被ばくしたのか、記録に残してほしいと考える。)
調査は十分か?
このWBC替え玉の調査は、 入退域管理棟のゲート通過記録と、WBC測定記録を照合して行われた。
ゲート通過記録が無い日に、WBC測定記録があれば、すなわち、他者がなりすましてWBCを測定したと洗い出したのだ。
しかし、筆者は疑問が出てきた。
福島第一は、熱中症対策のため、早朝3時や4時から作業を始め、午前中に仕事を終えることもある。いったん、退域してから、第三者がそのIDカードを使ってWBCの測定をした場合は、通過ゲートの記録があっても、WBCのなりすまし測定が発生する。
なので、日にちの照合だけでは、すべての替え玉案件を洗い出せないのではないか? 日にちと共に時間の照合はしたのか?
その旨、東京電力に取材中である。回答があれば、追記する。
(ちなみに、この問いを、電話で東京電力に伝えたところ、東電社員は「あっ!それはそうですね」と答えたことを記しておく。)
再発防止策
参考資料として、再発防止策の資料を下記に紹介する。
ルールの周知、IDカードの管理の徹底、WBC室を有人にすることなどである。
(引用する際は、リンク掲載をお願いします)
(引用リンクの無い、全文転載を禁じます)