3行まとめ
・昨年12月測定の聖火リレースタート地点のホットスポットの土壌分析結果を、東京電力は福島県には口頭のみの報告しかしていなかった。
・東京電力から環境省への報告は、筆者の記事公開後の2月18日であった。
・環境省は報告を受けた値(103万Bq/kg)などの3か所の値の公表は、今のところ考えていない。
(環境大臣の植木鉢に汚染土壌を再生利用するパフォーマンスより、住民のための測定、除染、情報公開をすべきである!!)
聖火リレーのスタート地点の土壌、103万Bq/kgと東電が測定
東京電力は、昨年12月に、東京オリンピックの聖火リレーのスタート地点であるJヴィレッジの汚染地点を測定し、ホットスポットの土壌を採取し、福島第二原発に持ち帰り濃度分析をしている。
しかし、その値は公表されていなかった。筆者が会見にて度々質問し、回答が返り、値が明らかになったのは2月13日である。
もっとも高かった地点は103万Bq/kgであった。
2月16日付けで筆者が公開した記事は下記。
103万Bq/kgを報告・公表しない東京電力
昨年12月12日には全て測定結果が出ているこの値を、なぜ公表しないのか。
筆者の質問に、会見では東京電力は
「この値は環境省、福島県、地元自治体には報告した」
と回答した。
筆者はすぐに三者に確認した。回答は以下である。
(ちなみに、Jヴィレッジは広野町と楢葉町に広がる施設であるが、当該の汚染が見つかった場所は楢葉町の町営駐車場であるため、広野町には報告は無く、12月に出ている空間線量の情報のみ、とのことであった)
【楢葉町】
12月27日に東京電力からメールで報告を受ける。
数値の資料、測定地点のマップを受け取る。
【福島県】
1月27日に東京電力から口頭で報告を受ける。
別件の打ち合わせの際に「グリーンピースの測定で70μSv/hを超えていたところは、100万ベクレルを超えていた」という主旨の報告。
他の5か所2つの値(1万8800Bq/kg、9260Bq/kg)などの値は知らない。
別件の打ち合わせとは、Jビレッジの利活用について東京電力のサポートグループとしている定期的な打ち合わせ。
【環境省】
2月18日に東京電力からメールで報告を受ける。
数値の報告のみ、マップは事前の別の機会に受け取っている。
筆者の記事のあと、東電は慌てて環境省に報告か!? 福島県には文書報告無し
「環境省、福島県、地元自治体に報告した」と説明する東京電力だが、注目してほしいのはその日付である。
Jヴィレッジの汚染土壌の濃度測定値の記事を筆者が公開したのは2月16日、東京電力が環境省に値を報告したのはその2日後の2月18日だ。12月の時点で報告があるのは楢葉町のみ、福島県に至っては、口頭報告のみで数値の表はいまだに送られてきていない。
この報告の経緯について、筆者はたびたび東京電力に取材、質問を重ねている。が、「基本的には随時、報告をしていると思っている」「事実関係を確認中である」と繰り返すのみである。
この値を永遠に隠すつもりだったのか!?
なぜ分析結果を公表しないのか、という筆者の問いに東京電力はこう答えた。
「この場所は楢葉町さんの持ち物なので、東京電力所有でない場所の値を勝手に東京電力が公表することはできない。楢葉町には値を伝えている。」
値が公表されていないのは、さも、楢葉町の意向のように回答した。
楢葉町に、東京電力から報告された値を公表する計画があるかと取材するとこういう回答であった。
「それは環境省、もしくは福島県が判断することと思っている。そもそも昨年12月にJヴィレッジに汚染を測定して除染、ということも、環境省、福島県、楢葉町、東京電力と協議して、東電が除染を実施し、環境省が公表ということになった。なので、楢葉町としては、同様の形かと考えている」
昨年12月の環境省の「Jヴィレッジ及びその周辺における空間線量率の測定結果について」は下記である。
値の報告を受けた楢葉町が「この情報は福島県や環境省に報告され、そこで公表されるだろう」と考えていたとしても、 福島県は数値を知らされておらず、環境省に報告が上がったのは楢葉町への報告から2カ月後である!
測定結果が出た12月の時点で、福島県にも環境省にも報告はなされていなかったのだ。
2月18日にこの汚染土壌の分析結果を報告された環境省に改めて取材し、
「前回、12月12日の 『Jヴィレッジ及びその周辺における空間線量率の測定結果について』の続報として、改めて東京電力から報告を受けた数値を公表するか」
と問うたところ「その予定はない」との回答であった。
筆者が記事を書くまで環境省は報告を受けていない。
報告を受けていた唯一の自治体、楢葉町は「環境省が公表するもの」と考えていた。
ならば、この聖火リレーのスタート地点の汚染103万Bq/kgの値は永遠に隠されたままだったのか?
測定しても聞かれなければ公表しない東京電力
この値を公表したくなかった東京電力の一端が伺えるのが下記である。
筆者が入手したメールの一部だ。
東京電力は、自治体以外にも分析結果を公表していた。問い合わせた町議に対してである。そしてこの一文。
「分析結果については、メディアからも問われておらず、これまで対外的には公表しておりませんでした。」
問われなければ、自ら報告しないのか。環境省に対しても。
環境省の除染チームの指導責任も、もちろん大きくある。
しかし原発事故を起こした事業者、東京電力の姿勢、情報開示のあり方について非常に問題がある。
そもそも、この地点はグリーンピースの測定が無ければ、見つからなかった汚染だ。地表71μSv、103万Bq/kg、のホットスポットが見逃がされたまま、避難解除され、聖火リレーのスタート地点となっていたのだ。
しかし、指摘を受け、測定・除染・分析したにも関わらず、その分析結果は公表されていなかった。
「調べない、問題無い」だけではなく、
「調べた、けれど報告・公表しない」という形にもなっていたのだ。
そうではない。
「まず調べる、問題があれば対処する」
それが地道に繰り返すことが、問題解決の道筋である。
今後もモニタリング・再発防止策をすべき
「まず調べる、問題があれば対処する」
汚染箇所が見つかれば、除染をし、そしてその汚染の原因を調査して対策を取ることで、再発防止にも共通要因の類似の汚染防止にもなる。
それは環境省の「放射性物質による局所的汚染箇所への対処ガイドライン 」にすでに明記されている。
汚染原因は、局所的汚染箇所への対策を検討するにあたって最も重要な情報であり、その汚染の原因やメカニズムを把握することにより、適切な対策を選択することができ、再発防止や類似の汚染事例等への対処が可能となる。
(略)
放射性物質が今後も継続して流出し、蓄積する可能性を判断する材料にもなりうる。
筆者が、この環境省のガイドラインに基づいて、この局所的汚染箇所の調査、再発防止策を講じないのか、指示しないのか、と問うと「そのガイドラインの存在は知っている。東京電力に汚染原因を問うと『不明』という回答が返ってきたのが現状である」と繰り返すのみであった。
(現状ではなく今後の対応を聞いている、これで終了か、調査継続か、と何度質問しても「現状はこうである」という回答を繰り返すのみで会話にならなかったことを付け加えておく)
どこが局所的汚染だったか
東京電力は、土壌採取を6か所、それをいくつかまとめて3検体として土壌分析し、その結果は、筆者に回答した。しかし、その土壌採取の具体的な場所は何度質問しても回答しなかった。
Jヴィレッジ高線量地点、東電による空間線量調査
(表は筆者作成、詳細な地点を追加)
Jヴィレッジ高線量地点、東電による土壌分析結果
(表は筆者が作成、 詳細な地点を追加 )
環境省の 「Jヴィレッジ及びその周辺における空間線量率の測定結果について」 の資料では、地点は2か所しかわからず、しかも具体的なところまでは全くわからない。
しかし、今回、取材の過程において、筆者は測定箇所の資料を手に入れることができた。対応する箇所の空間線量、土壌濃度の値を記載する。
この図を見てもわかるとおり、山側のふもと付近で、ホットスポットができていたようである。これは単発の除染だけではなく、継続して測定・除染すべき場所ではないだろうか。
山に降った放射性物質が、ウェザリングで麓におりてきて、局所的に高濃度汚染になってしまう場所なのではないだろうか。
大熊町議に取材すると、避難解除となっても、このような高濃度汚染箇所が局所的に存在するという。
「どこがそのような状態になっているか、調べて、対策をしてほしい。
調べないまま、だいたい問題がないとして避難解除が進んでいる」
とのことであった。
調べない、問題ない。指摘されたら調べるけど報告しない、公表しない
十分に調べないまま、高濃度汚染箇所を残したまま避難解除となり、聖火リレーのスタート地点となった。
指摘され、測定・除染はしたけれど、土壌濃度は質問がなければ報告・公表しなかった。
下記は取材の過程で手に入れた文書の一部である。東京電力の回答である。
約100万Bq/kgという高い放射能濃度の土壌が人体への影響があるのではないか、という問いにはまともに回答していない。
そして今後は「環境省や地元自治体と協議しながら、適切に対応する」と回答している。
しかし、環境省には記事が出た後での報告、福島県には口頭のみの報告で、「協議しながら、適切に対応する」ことは果たしてできるのであろうか。
知りたいと思う社会が情報を出し、情報を得て議論をし、そして未来を作っていく
「分析結果については、メディアからも問われておらず、これまで対外的には公表しておりませんでした。」
下記は、2020年3月12日の東京電力定例会見の新橋本店の模様である。
3.11の翌日の東電会見は記者は筆者以外は3人であった。3.11までは報道が多くとも、翌日にはすでにこうである。
悪い情報の自己申告はない。質問が無ければ公表されない。
取材の少なさは、何も報道だけの責任ではない。(もちろん責任がゼロではない)この日はwebの中継メディアも一切いなかった。webメディアは既存メディアのような制約は少なく、視聴者が多ければ報じる。視聴者がいなくなったので、中継が無くなっていくのだ。(ニコニコ動画の東電会見中継は、昨年度から無くなった)
調べて、問題があれば議論して対策をする。これが問題解決の道筋である。
しかし悪い情報は出てこない。情報が無ければ議論ができない。
悪い情報でも、受け止め、どうすべきかを考える、よりよい今後を作りたいと、1人でも多く考え動くこと、
調べた情報を共有し、過去から学び、対策を一つ一つ練っていくことが、未来を作っていくことだと筆者は考える。
調べない、問題ない、ではなく。
新型コロナウィルスの問題も同様だ。「調べない、問題ない」ではなく、情報を共有し議論し対策を練っていくこと、
また、新型コロナウィルスで大変なときも、過去の問題を放置せず監視し続けることが結果的に、社会をよりよくすること、新型コロナウィルス問題の改善にもつながると筆者は考える。
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