3行まとめ
・ストロンチウム処理水を貯留している溶接型タンクから硫化水素が発生。
・8/27に異臭を確認、10/30にG3-E1タンク内部で硫化水素50ppm以上を測定。
・現在、他タンク119基を調査中。
最高値50ppmの測定機を振り切れたため「50ppm以上」実際の濃度は分からず
8月27日に多核種除去設備(ALPS)の入口水、つまりタンクに貯留している汚染水の定例サンプリング時に濁りと異臭が確認された。
9ー10月にかけて濁りと異臭の調査に向けた分析計画が検討された。
10月30日にG3-E1タンク内部に硫化水素50ppm以上を確認。
50ppmが最高値の測定機で振り切れたため、実際どのような値だったかは分からない。
当該のタンクは12月13日に再測定したところ、硫化水素は検出されなかった。
タンク水に溶解したか、ベントラインから徐々に拡散したもの、というのが東京電力の評価である。
硫化水素とは
硫化水素は卵の腐ったような臭いの無色の気体である。
空気より重いため、より低いほうにたまりやすい。
リスク①人体への影響
東京電力は「50ppm程度では人体への影響は低い、致死性があるのはもっと高濃度」と説明していた。
しかし、20-30ppmで嗅覚疲労がおこり、それ以上の濃度を感じにくくなり、
50ppm以上だと数分で嗅覚神経麻痺になり、不快臭気を感じなくなることもあるという。
「50ppm以上」というのは、実際どのような濃度だったのか。
タンクの水面より上部の蓋部分での測定であり、水面から測定部まで、50cm-1m弱の距離があると東京電力は回答した。
硫化水素は底部にたまりやすいので、水面付近で、もっと高濃度の箇所は存在していた可能性は高い。
また「ベントラインから徐々に拡散」したとしても、発生した気体量が多ければ、どこか底部の部分に溜まっている可能性もある。
「50ppm程度では人体に影響は低い」ではなく、50ppm以上であって、どれくらいの濃度かは把握していないのだから、丁寧で迅速な対応をして頂きたい。
リスク➁腐食
硫化水素は鉄や銅などの金属に対して腐食性を持つ。
酸化して硫酸になれば金属やコンクリートなどを腐食させる。
タンクの腐食は今のところ許容範囲内の肉厚で、腐食がしてるかどうかは一つのタンクを水抜きして調査するという。
どのような性状の汚染水を、どれくらいの期間、貯留していたため、硫化水素が発生したかは現在調査中とのこと。
ちなみに、当該のエリアのタンクが施工完了し、運用が開始されたのは2013年7月からである。
硫酸塩還元菌はゼロだが、硫酸塩還元菌由来での硫化水素と推測
タンク10基をピックアップし、サンプリングして汚染水を分析。
浮遊性物質(SS=suspended solids/suspended substance)濃度が高く、全有機炭素(TOC=Total Organic Carbon)が高いタンクから硫化水素が発生していたということから、(下記資料でピンクで囲っている部分)
硫酸塩が存在し、十分な酸素が供給されない環境(嫌気性環境)下で、バクテリアによる有機物分解が促進され、硫化水素を発生したのでは、と東京電力は評価している。
筆者はおかしなことに気付いた。
硫酸塩還元菌由来での硫化水素、と評価しながら、サンプリングの分析結果では、硫酸塩還元菌は全てゼロとなっている。(資料の右端、黄色でマーキングしている部分)
硫化水素が発生していたG3-E1タンクもゼロである。これはなぜか?
東京電力「硫酸塩還元菌は嫌気環境下で活動する。酸素に触れれば死ぬので、恐らく、サンプリングの過程で、空気にさらされたものではないかと」
つまり、硫酸塩還元菌が由来の硫化水素発生と推測はしたが、サンプリング時に空気にさらしてしまい、測定することができなかった、とみているのだ。
廃棄物処理施設や排水施設などで、このような嫌気環境での硫酸塩還元菌による硫化水素発生は時折みられる現象で、事故が起こらないよう、通常は様々な対策が取られている。(嫌気環境を防ぐため、攪拌することによる酸素供給や、硫酸塩還元菌の発生抑制剤を散布したりなどである)
汚染水タンクでの硫化水素発生時点で、硫酸塩還元菌によるものと比較的容易に推測できるので、サンプリング時には留意して頂きたい。
ストロンチウム処理水を貯留している溶接型タンクは129基で、約12万t貯留している。
受払いタンクのみを調査しただけで、全数はまだ未調査である。
調査対象のタンクは下記である。
硫化水素が発生していたG3エリアのタンクは、西エリアで32基、北エリアで6基ある。
今後の調査・対策
(赤字が東京電力の対策で、→以降が、筆者のコメントである。)
①12月中に各タンク群から代表のタンクを選定し、硫化水素濃度を測定。
→代表タンクだけの調査だけで硫化水素調査は十分か? タンクによって条件が変わっている可能性があるのでは?
➁1月に、タンク1基を水抜きし、腐食進行について調査。
→1基を選択する基準は? もっとも硫化水素が高濃度なもの?
50ppm以上測定できる計測器をちゃんと用いるのか?
➂3月に浮遊性物質の処理を検討。
→浮遊性物質の濃度が高い状況では、そのまま多核種除去装置に通すことが難しい。
浮遊性物質が多いと、前処理の設備が詰まりやすく、フィルターの交換頻度も上がってしまう。
なので、どのように処理をするか検討が必要なのである。
まとめ
海水由来などの汚染水を貯留しているタンクや配管は、嫌気環境になると、硫化水素が発生しやすい。
これは各現場で死亡事故が発生しやすいため、注意喚起されている問題である。
嫌気環境を作らないよう、酸素を混ぜ込むバブリングや、硫化水素の検知器を取り付けたり、
硫酸塩還元菌の活動抑制剤を使用したりなどの対策が取られている。
死亡事故まで至らなくとも、腐食によるリスクもある。
東京電力は「こんなに長期間、ストロンチウム処理水を貯留することになるとは計画していなかった、
想定外に全く動かさない『死に水』になってしまったため嫌気環境になった」と説明していたが、
「想定外」とは言わず、汚染水を貯留する際のリスクを把握して、管理をしてほしい。
また「50ppm以上測定できる測定器が無かった」というのも「10Sv/h以上測定できる測定器が無かった」という説明を思い起こさせた。
東京電力は電力会社ではあるが、汚染水を貯留しているサイトを持つ事業者として、
廃棄物関係の知識や技術も付け、測定機や対策も準備して頂きたい。
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