4行まとめ
・2025/10/30 千代田テクノルが納入した放射線測定機器3615台について、必要な校正を行わず、偽造した校正証明書、偽造の校正シールで納品したものがあると公表。
・その不正は2022/9/1から2025/9/30の期間にわたって、福島営業所の担当者が行っていた。
・その放射線測定機器は主に東京パワーテクノロジー、東京電力に納品されていた。
・3615台のうち、2315台が、最終的にどこに納品され使用されたかは現時点で不明である。
東京電力 2025/10/30の会見、筆者取材~Sr-90の校正、高エネルギーのβ線源の校正をおこなわず偽造の校正証明書
東京電力は、千代田テクノルの不正な校正の放射線測定機器の情報に接し、自社の納入分にも同様の問題がないか確認。
すると、2025/6/30に千代田テクノルから納入された1000台の新型APDのうち、199台が当該の不正と同様、校正証明書が偽造されていた。
(福島第二原発や柏崎刈羽原発など、これ以外の不正機器は無かったとのこと)
新型APDの製造メーカーが校正をおこなっているが、その校正線源は
γ核種:Cs-137 β核種:Kr-85 である。
一方、東京電力が千代田テクノルに要求した校正線源は
γ核種:Cs-137 β核種:Sr-90 である。
Kr-85は低エネルギーのβ線で、Sr-90は高エネルギーのβ線である。
現在の福島第一原発では、Sr-90由来のβ線の影響が強い。
そのため、東京電力は、千代田テクノルに、β線の校正線源はSr-90で、と発注していた。
が、その校正が行われない状態で、偽造の校正証明書が作成され、納品されていた。
東京電力は「製造メーカーでも校正はされていたので大きな問題はない」と説明を繰り返していたが、
低エネルギーのβ線で校正された線量計は、高エネルギーのβ線の感知は可能だが、
その測定値の信頼性には限界がある。
また、東京電力は「作業員の線量記録には別の線量計も使用しており、問題はない」とも説明しており、そのように報じるメディアも少なくなかった。
しかし、それは福島第一原発の線量計の運用を理解していない。
福島第一原発の作業員被ばくの測定の運用~APDとガラスバッジの違い
福島第一原発の作業員は、APDとガラスバッジの2種の線量計が必須である。
(それに加え、作業に応じて、水晶体被ばくを測定する線量計や、皮膚の等価線量を測定するリングバッジなどを加える場合もある)
①APDとは→日々の作業管理
APDとは、警報付き個人線量計、Alarm Personal Dosimeterの略である。
日々の被ばく作業や、取材や視察などの一時立ち入りの際にも渡される。
主な使い方は、APDに計画線量をセットし、通常その5等分の値でアラームが鳴るように設定する。
例えば、計画線量がγ線で2.5mSv/日としよう。
すると0.5mSvごとにアラームが鳴るように設定する。
3回目のアラームが鳴った時点で、作業を中断し、戻る準備に入る。
そうすれば、計画線量を超えて作業をしてしまうことがない。
という使い方をするのがAPDである。
毎日毎日、福島第一原発の放射線管理区域に入る際に、その作業に応じて計画線量を設定したAPDが個々人に配られる。
一日の作業の終わりに、APDからレシートのように線量をプリントしたものが出てきて、それをピっと切り取ってAPDを返却する。
なので、1台のAPDは毎日様々な人間に使われる。
不正APD199台は、少なくとも、9003回使用されたことが分かった、と東京電力は回答した。
(ちなみに不正APD199台のうち11台は故障したとのこと。
残り188台を、改めてSr-90で校正をかけ、今後、使用していくとのこと)

APD貸出棚
(撮影:おしどりケン)
②ガラスバッジとは→個人累積線量
APDは、個人に属さず、毎日別の人間が使用する一方、ガラスバッジは個人に属する。
作業員ごとに配布されるガラスバッジは、1ヶ月ごとに回収され、その月の累積被ばく線量を測定する。
東京電力が毎月末に公表している「被ばく線量の分布等について」の資料では、前月の値はAPDを反映した速報値、前々月の値はガラスバッジを反映した確定値になっている。
 
筆者は、この被ばく線量の資料で、外部被ばく線量、皮膚の等価線量、水晶体の等価線量などの最大値の作業件名を毎月質問しているため、ガラスバッジとAPDの違いが出てくることを把握している。
前述のとおり、高線量被ばくが予想される作業は、水晶体被ばくを測定するバッジをゴーグルの中に入れたり、線源に近くなる手指にリングバッジをはめたりする。
そして、そのような作業に影響が大きいのはβ線である。
(高線量の汚染水やガレキなどの作業で、リングバッジのβ線が跳ね上がる。)
また、外部被ばく線量のAPDの反映値はγ線のみだが、皮膚と水晶体の等価線量のAPDの反映値は、β+γ線である。
APDの速報値では、外部被ばく線量、水晶体の等価線量、皮膚の等価線量は、同じ値が記載されていることが多いが
時々、異なる値、等価線量のほうが大きな値が出てくるのは、β線の寄与が大きい被ばく作業を意味する。
なので、「APDの校正は不正があったが、作業員の線量記録には別の線量計も使用しており、問題はない」
という東京電力の説明は不十分である。
日々の作業管理のAPDのアラーム、特にβ線の校正が不十分というのは筆者には懸念がある。
東京電力は「空間の雰囲気線量率でも管理しているので問題はない」とも会見で説明した。
繰り返しになるが、γ線の雰囲気線量率は低くても、β線の寄与が高い作業は存在するからである。
この不正APDが使われている期間でも、Eエリアのフランジタンクのα廃棄物など非常にβ+γの値が高い作業が行われた。
2025/8/27 Eエリアタンクスラッジ回収、α廃棄物 
雰囲気線量率0.01mSv/h 
β+γ線量率 100mSv/h
2025/9/10 Eエリアタンクスラッジ回収、α廃棄物
雰囲気線量率0.01mSv/h 
β+γ線量率 200mSv/h
なので、東京電力が会見で説明した「別の線量計で累積線量は計測しているので問題はない」という説明は不足しており、
日々の作業管理でβ線が管理できていない可能性は存在する。
結果、本当に問題がなかったかどうか分かるのは、1ヶ月後のガラスバッジの線量が出そろってからであろう。
10月の作業のガラスバッジの確定値が公表されるのは、12月末である。

福島第一原発構内にて
(撮影:おしどりケン)
会見おまけエピソード
ちなみに、東京電力は問題がないという論拠として「同行している作業員の、不正がおこなわれていないAPDでも問題はなかった」と説明した。
筆者は「では、同行の作業員全員が不正APDだった、という作業班は存在しない、という理解でいいか」と質問した。
すると、しばらく沈黙のあとに「それは分からない。言い過ぎた。」とのことであった。
東京パワーテクノロジーへの取材 2025/10/31時点~3413台の内訳、基準値超えの機器の詳細
千代田テクノルから納品された不正対象機器は3413台。
うちわけは
APD(3074台)
GM管(163台)
シンチレーション(124台)
電離箱(18台)
ダストサンプラー(19台)
粉じん計(15台)
また、東京パワーテクノロジーから1100台、環境省に納品されている。
その他の納品先、委託元はどこかと問うたが
「搬入先、委託元は契約上、回答は差し控えさせていただきます」とのことであった。
また、プレスリリースに>ごく一部の機器で基準値を超えている<とあったため、詳細を訪ねた。
以下、回答である。
現在までのところ、主にシンチレーションサーベイメータでの基準線量率(±15%)超過を確認しています。
今後、指示値を踏まえ補正値を乗ずる方式により評価したいと考えています。
なお、基準値超過機器は現時点で18台。内訳はGM管2台、シンチレーションサーベイメータ15台、電離箱1台となります。
環境省への取材 2025/10/31時点~全貌把握には時間を要する
千代田テクノルから納品された不正対象機器は現時点で1100台程度、24件の作業で使用を確認。
(中間貯蔵施設関連業務、仮設焼却炉等の管理運営業務、除去土壌等の輸送業務 等)
まだ調査中で確定ではないが、だいたいこの内容とのこと。
それが全て、東京パワーテクノロジーからの納入分か問うと、
必ずしもそうではなく、間にゼネコンなど別の企業が入っているケースもあり、全貌把握に時間がかかるとのこと。
環境省の福島地方環境事務所にも取材したが、中間貯蔵施設や廃棄物関連など、納入された部署が異なるため
全体把握は環境省本省の調査とのこと。
千代田テクノルへの取材(一部回答待ち)
千代田テクノル福島営業所の担当者が2022/9/1から2025/9/30にかけて計3615台の放射線測定器の校正を、
担当部門に依頼せず、自ら偽造の校正証明書、校正シールを作り、納品していた。
発覚の経緯は、2025/9/30に当該担当者の上長が不審な受注処理に気付いたことが発端。
社内調査の結果、10/15までに担当者単独での不適切行為の全容が明らかになったとのこと。
具体的に、どのような機器を何台、どこに納品していたか、など取材中。
現時点まとめ~3615台:TPT3413台(うち環境省1100台)、TEPCO199台、福島県1台残りの2315台はどこで使用?
千代田テクノルが偽造した校正証明書で納品した不正対象機器は3615台。
それらが、東京パワーテクノロジーに3413台(うち環境省に1100台)、東京電力に199台、福島県に1台納品されたことが分かった。
合算すると3613台であり、残りの2台がどこに納品されたのかは今のところ分からず、千代田テクノルに質問している。
また、千代田テクノルから納品された東京パワーテクノロジーが、環境省納入分を引いた2313台をどこに納入したかも、非公表である。
「測定器の校正」というもっとも信頼を問われる部分で、偽造が、不正が行われたという非常に大きな問題である。
なぜ防げなかったのか、なぜ長期間気付けなかったのか、千代田テクノルに問われる部分も大きく、
個人の責任だけにせず、運用の再設計や、外部から監視の制度など、規制側も動いてほしい。
また、不正対象機器が、この3年間、どこに納入されていたのか、明らかにすべきである。
東京パワーテクノロジーや、千代田テクノルの「契約の関係で回答できない」という回答は論外で
放射線防護の信頼性を担保するための説明責任がある。
そして、今回、不正対象機器を納品されていた企業、団体は、環境省、福島県、東京電力のように、自ら明らかにしてほしい。
この件に関しては今後も取材を続け、随時更新する。
参考資料
①東京電力 不適合情報 2025/10/29分 (2025/10/30/16時公表)
 
②千代田テクノル:プレスリリース 2025/10/30
 
③東京パワーテクノロジー:プレスリリース 2025/10/30
 
④環境省:プレスリリース(記者クラブ投げ込み,HP公開無し)2025/10/30
(株)千代田テクノルによる放射線測定器等の不適切な対応について
本日、令和7年 10 月 30 日(木)付けで、株式会社 千代田テクノルより、
特定の社員が、放射線測定器等の校正を校正部門に作業依頼せず、
自ら校正証明書及び校正シールを偽造していた旨の発表がありました。
このうち、環境省が発注した業務等に関連するものとしては、
放射線測定を行う一部の業務等において、
(株)千代田テクノルによって校正が適切になされなかった放射線測定器等が、
受注事業者等により使用されていたことが確認されています。
当該行為が、長期にわたって同社において認知されず、継続されていたことは、大変遺憾です。
現在、環境省では、該当する機器の実際の使用状況等の確認を進めており、
調査結果を踏まえ、適切に対処してまいります。
1.不適切行為の概要
(1)不適切行為が行われた時期及び事業所
・ 令和4年9月1日~令和7年9月 30 日
・(株)千代田テクノル福島営業所
(2)不適切行為が行われた放射線測定器等(環境省関連)
・ サーベイメータ(空間線量率や表面汚染密度の測定等に使用)
・ ダストサンプラー(空気中の浮遊物質等の捕集に使用)
・ 粉じん計(粉じん量の測定に使用)
・ 積算型個人被ばく線量計(作業員の被ばく線量把握等に使用)
(3)不適切行為が行われた測定器が用いられた疑いのある業務等件数(環境省関連)
・ 現時点で、当該期間において計 24 件を確認(中間貯蔵施設関連業務、仮設焼却炉等の
管理運営業務、除去土壌等の輸送業務 等)。詳細については、確認・整理中。
2.環境省が発注した業務等における対処
・ 不適切行為が行われた機器については、関係事業者が順次回収し、再校正を実施。
・ 過去に不適切行為が行われた測定器が使用されていた可能性のある測定については、
現在、適切に校正された機器により実施中。
・ 事実関係等の確認を進め、結果については、あらためて HP において公表予定。
1.不適切行為の概要
(1)不適切行為が行われた時期及び事業所
・ 令和4年9月1日~令和7年9月 30 日
・(株)千代田テクノル福島営業所
(2)不適切行為が行われた放射線測定器等(環境省関連)
・ サーベイメータ(空間線量率や表面汚染密度の測定等に使用)
・ ダストサンプラー(空気中の浮遊物質等の捕集に使用)
・ 粉じん計(粉じん量の測定に使用)
・ 積算型個人被ばく線量計(作業員の被ばく線量把握等に使用)
(3)不適切行為が行われた測定器が用いられた疑いのある業務等件数(環境省関連)
・ 現時点で、当該期間において計 24 件を確認(中間貯蔵施設関連業務、仮設焼却炉等の
管理運営業務、除去土壌等の輸送業務 等)。詳細については、確認・整理中。
2.環境省が発注した業務等における対処
・ 不適切行為が行われた機器については、関係事業者が順次回収し、再校正を実施。
・ 過去に不適切行為が行われた測定器が使用されていた可能性のある測定については、
現在、適切に校正された機器により実施中。
・ 事実関係等の確認を進め、結果については、あらためて HP において公表予定。
本日、令和7年 10 月 30 日(木)付けで、株式会社 千代田テクノルより、
特定の社員が、放射線測定器等の校正を校正部門に作業依頼せず、自ら校正
証明書及び校正シールを偽造していた旨の発表がありました。
このうち、環境省が発注した業務等に関連するものとしては、放射線測定
を行う一部の業務等において、(株)千代田テクノルによって校正が適切にな
されなかった放射線測定器等が、受注事業者等により使用されていたことが
確認されています。
当該行為が、長期にわたって同社において認知されず、継続されていたこ
とは、大変遺憾です。現在、環境省では、該当する機器の実際の使用状況等
の確認を進めており、調査結果を踏まえ、適切に対処してまいります。
(引用する際は、リンク掲載をお願いします)
(引用リンクの無い、転載を禁じます)
 
            

