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目次
3行まとめ
福島県議の視察
日立に問い合わせ
取材まで同じ機器? BuzzfeedNews、福島民友
「情報を正確に伝える」測定?
会見での東電の回答「処理水のトリチウムを測ったわけではない」
様々な媒体も同じ測定を…毎日新聞、読売テレビ、IAEA、ニッポンドットコム
経産官僚が共犯、主導?
ガンマ線の測定としても不十分
まとめ

3行まとめ

・ALPS(アルプス)処理水の視察や取材に際し、トリチウムのβ(ベータ)線が測定できないγ(ガンマ)線の空間線量を測定する計測器を東京電力が渡し「安全性」を確認させていた。

・ALPS処理水のトリチウム濃度は平均730,000Bq/L。告示濃度をはるかに超える高濃度トリチウムでも、東京電力が準備した計測器では絶対に測定できない。

・取材や視察には資源エネルギー庁 木野正登・廃炉汚染水対策官もたびたび同席し、処理水を手渡したり計測したりしている。
国がらみの、詐欺に近い「安全キャンペーン」である。

※「ALPS処理水」に関する経緯、筆者の取材記事は最後に掲載している。(後述1)

福島県議の視察

 11月10日、福島県議13名が福島第一原発の視察に行った。その報告をするツィートで気になるものがあった。

「私たちが測っているのはトリチウムを含む処理水が入ったボトルです。放射線量が極めて微力のため薄いプラスチックボトルでも、放射線量に変化はありません。」

「処理水の安全性について、その場にいた全県議が科学的に確認することができました」

県議らが手にしている測定器、日立TCS-172は、γ線の空間線量率を計測するもので、液体のトリチウム、β線は測れない。
 ALPS処理水のトリチウム濃度は平均73万Bq/L(後述2)トリチウムの告示濃度限度をはるかに超えるトリチウム汚染水でも、β線をとらえられないこの測定器では針が触れるわけはない。

 また県議のツィートには

「ちなみに、処理水ボトルの放射線量は、0.12マイクロシーベルト、対比する市販の家庭用ゲルマニウム温浴ボール1.38 マイクロシーベルトでした。 」

ともある。
 
当たり前だ。ゲルマニウム温浴ボールはγ線を出し、処理水はβ線を出す。
γ線を計測する測定器では、ゲルマニウム温浴ボールの方が高いだろう。
 
 また、生活圏の中でも御影石やラジウム岩盤温泉なども放射線を出すものもある。放射線が健康に良いとされるホルミシス効果はICRP(国際放射線防護委員会)は支持していない。ラドン温泉と発がんに関する調査研究などもあるが、ホルミシスについて論じだすのがこの記事の主旨ではないので、このあたりにとどめる。
 生活圏の中にある放射線や、医療放射線について問題にしているのではなく、原発事故で環境中に制御できない状態で放出された放射性物質が、大きな問題だからだ。

 とにかくβ線核種が高濃度入っている処理水ボトルを、γ線の空間線量を計測する機器で測るのは全く適切ではない。

 この視察は東京電力が案内し、ALPS処理水は東京電力が提供し、写真撮影は全て東京電力の監視・チェックの元で行われる。
 原子力のプロであるはずの東京電力が、なぜこのような愚行を黙認しているのか?
 その謎は、11月2826日の東京電力・中長期ロードマップ会見にて解けた。
筆者の質問に対し、返ってきた回答は驚くべきものだった。

https://twitter.com/kohei_w1985/status/1331423480865198080?s=20  より

11/26会見の前に 日立に問い合わせ

 筆者は県議の手にしている測定器が気になった。古い型のものだからだ。
原発事故直後はよく目にしたが、それを今も校正して使い続けているのだろうか?
 後継機、販売終了時期、性能について、筆者は測定器メーカーである日立ヘルスケアに取材した。
(原発事故後は「日立アロカ」という名称で親しまれていた本機器だが、 日立アロカメディカルは2015年に日立ヘルスケアに吸収合併されている。 )

 県議が手にしている測定器はTCS-172。
しかしTCS-172は2008年に販売終了している。
その後継機はTCS-172Bでこれも2018年に販売終了
現在は後継機としてTCS-1172を販売中だという。
 
 スペック自体はほとんど変わっておらず、γ線の空間線量率を計測する機器で、液体のβ線など測定できないとのことであった。

視察だけでなく取材まで同じ機器?

 県議の視察について質問しようとしていた筆者だが、気になる記事を見つけた。取材の記者も同じ測定器で計測しているのだ。
 同じようにβ核種が高濃度の液体を、γ線の空間線量率測定器で測っているのだ。
測定器は日立に確認した2008年に販売終了しているタイプのもの。
これは偶然か?

BuzzFeedNews 2020/2/10 配信

このボトルには「トリチウム濃度1リットルあたり77万ベクレル」との表記があった。
……
経産省は、トリチウムの放射線のエネルギーは弱いと説明している。その通り、線量計を近づけても、ほとんど値は変わらない。

https://www.buzzfeed.com/jp/kensukeseya/syorisui-4 (太字は筆者)
https://www.buzzfeed.com/jp/kensukeseya/syorisui-4  より
https://www.buzzfeed.com/jp/kensukeseya/syorisui-4  より
https://www.buzzfeed.com/jp/kensukeseya/syorisui-4  より

 明らかに間違った測定を、東京電力が黙認しているなどおかしい。ひょっとしてこの測定器は、県議が持参したものではなく、東京電力が用意したものでは? 
BuzzfeedNews は東京電力の「化学分析棟」での測定で、経産省も同席している。原子力のプロたちが、なぜ間違った測定を黙認しているのか?

 筆者は会見で「ALPS処理水の測定器は東京電力が準備しているのか?」そうだとしたら悪質だ。そう質問しようと思っていたが、福島民友の2月の記事を見て、怒りで震えた。

福島民友 2020/2/12 配信

 「これが処理水です」。理科室のような分析棟で、担当者として取材に同行した資源エネルギー庁の木野正登廃炉・汚染水対策官が、約1リットルの処理水の入った容器を指さした。トリチウム濃度は1リットル当たり約77万ベクレル。第1原発で保管されている処理水の平均濃度と同程度だ。
 担当者が容器からビーカーに流し入れた。記者は、東電所有の検出器を借りて水面に近づけ、処理水から放出される放射線量を測った。検出器の針はほとんど振れない。分析棟内の空間線量とほぼ同じ毎時0.04マイクロシーベルトだ。

https://www.minyu-net.com/news/sinsai/fuhyo-deep/FM20200212-458914.php   (太字は筆者)

  「東電所有の検出器」とある。このおかしな測定は、やはり東電がやらせてたのだ。そして国、資源エネルギー庁の木野正登対策官も共犯だったのだ。

 記者の取材に対し、東電と国は、77万Bq/Lという高濃度トリチウムが入った汚染水の測定を、トリチウムのβ線が絶対に拾えない測定器で「放射線量」を測定させていたのだ。

「情報を正確に伝える」測定なのか?

 これは記者や議員の、放射線に関する知識の少なさも問題ではあるだろう。

 しかし、ALPS処理水に関して、東京電力と国は「情報を正確に伝えるためのコミュニケーションの取組」を謳ってきたではないか。
 こんな詐欺まがいの測定を視察や取材にさせるのが「情報を正確に伝える」ことになるのか??

 実際に、県議や記者は、測定後の文章ではβ線やγ線の違いを把握しておらず「処理水の放射線量」を測ったとしか思っていない。これは東電や国が「情報を正確に伝え」たことになるのだろうか??

https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/images/200324.pdf  より

東電は「γ線しか測れない。処理水のトリチウムを測ったわけではない」

 以下が、11月2826日の東電会見での筆者の質疑抜粋である。
 東電は取材や視察に、ALPS処理水のトリチウムを測定できない機器を貸与して測定させていたことは認めた。
 「トリチウムの放射線は弱い、この測定器はγ線を測るという説明はした」と。

筆者が「記者や議員に、東電が貸与した計測器ではトリチウムが77万Bq/Lであっても計測できないと説明したか?」と問うと「説明したかどうか把握していない」と。

そして、あろうことか、酷い比較対象の「ゲルマニウム温浴ボール」まで東電は用意していたのだ!!

――そもそも論だが、東京電力はALPS処理水のトリチウムは液体シンチレーションで測定しているはずだよな?

東電「そのとおり」

ーー日立のTCSシリーズなどγ線の空間線量を測定する機器でALPS処理水のトリチウムを測ってはいないな?

東電「測っていない」

ーー視察の県議に、ALPS処理水を測るために、γ線の空間線量を測定する機器を貸与したのは東京電力か?

東電「ALPSはトリチウム以外のものは取り除ける。バックグラウンドと同等であるという事でして、処理水のトリチウムを測ったわけではない

ーー今年2月の福島民友やBuzzfeedNewsのALPS処理水の関する取材の際に、同様の測定器を貸与したのは事実か?

東電「 γ線の測定器であると説明したうえで測定したのは事実

ーー 「手渡した測定器でトリチウムは測れない」と説明したか

東電「トリチウムは微弱なエネルギーで、表に出ないとは説明してる 」

ーー13名の福島県議の数名はすでに記事を出している。
これは(計測を)理解できない県議が悪いのか?

東電「 β線は弱いのでボトルで遮蔽される。γ線のものは低減してる 」

ーー記者や議員に、東電が貸与した計測器ではトリチウムが77万Bq/Lであっても計測できないと説明したか?

東電「説明したかどうか把握してない」

ーー2月の記者の取材と、11月の県議の視察にどう説明したか確認の上、回答を。

東電小野「 その時の説明はALPSでトリチウムは取れないと。弱いβ線しか出さないので、ポリ容器で止まる。
γ核種はしっかり取ってバックグラウンドと同じだと説明」

ーーこのような視察、東電が測定器を貸与した視察は今まで何件したのか?

東電「7月から視察にボトルを用意している。 他のγ核種は取り除けるという事でラジウムボールを用意してる」

ーー!!ラジウムボールは、東電が用意したのか?

東電「はい」

ーー 福島県議と2月に化学分析棟に入った記者にどのような説明をしていたのか担当者にヒアリングをお願いする。私も取材するが。
御社が詐欺のような測定をしていたと捉えられかねないので、
そうでなければ、きちんと説明してほしい。

https://twitter.com/ebiharaism/status/1331985519098564608?s=20

IAEA、読売テレビ、毎日新聞まで…

 東電やエネ庁が、詐欺まがいの測定を取材や視察にさせている。
他にもこのような事例はないだろうか? 調べていくうちに驚愕のことがわかった。
 筆者が個人的にショックだったのは毎日新聞だ。
 全ての記事に署名をつける毎日新聞は、筆者の体感だが、もっともこまめに情報開示請求などの調査報道に尽力している。
 開示請求資料の報告書を見ると、原発事故後の電通の広告費がもっとも少なかったのが毎日新聞だ。朝日新聞は読売新聞と同等の広告費が入っていると記されている報告書が少なくなかった。
(これはこれで興味深い資料などでまた記事にしたいと考えている)

 筆者が大手メディアの中で、比較的好んでいる毎日新聞まで、この測定の詐欺にひっかかっていた。

毎日新聞 2020/9/11 配信

https://mainichi.jp/articles/20200910/k00/00m/040/338000c  より

アルプスで処理した汚染処理水を見せてもらった。茶色の汚染水が無色透明になっており、水道水とは見分けがつかない。線量計を当てると毎時0・26マイクロシーベルトの目盛りを指した。その場所の大気中の線量と変わらないのを確認した。

https://mainichi.jp/articles/20200910/k00/00m/040/338000c (太字は筆者)

経産官僚が共犯、主導?

 読売テレビの記事では経産省エネ庁木野正登対策官が、「トリチウム水」に、自ら線量計をかざしていた。

読売テレビ 2020/10/29配信

福島第一原発にある施設内でトリチウム水を前に、経済産業省資源エネルギー庁の廃炉・汚染水対策官・木野正登氏が線量計をかざす。「この場所の空間線量が0.06マイクロシーベルト。線量計を処理水に近づけると0.06マイクロシーベルトのままです。処理水からは人体に影響する放射線が出ていないことがわかります。」

https://news.yahoo.co.jp/articles/0bba1569b4428bd5c14e97ca1b29fafbc0730fd1?page=2  (太字は筆者)

 経産省資源エネルギー庁廃炉・汚染水対策官、木野正登氏は、ALPS処理水の環境放出のトピックで様々取材を受け、各地で説明をしている。
 その中で、処理水のトリチウムは平均73万Bq/Lと説明している。

「処理水に含まれるトリチウムは平均で同73万ベクレル」

https://digital.asahi.com/articles/ASN936WH0N7WUGTB00G.html?_requesturl=articles%2FASN936WH0N7WUGTB00G.html&pn=4

 告示濃度限度をはるかに超える高濃度のトリチウムが含まれていても、β線を計測できない線量計では、まったく感知できない。
 そのような測定を自らも実演していたのだ。

前述の福島民友の記事には気になる記述がある。

トリチウムが出す放射線の弱さについては、東電や国も説明を続けてきた。だが、説明が現場実態に合っていると感じられたのは、こうして目の前で見たからだ。第1原発で処理水を見ることができるのは分析棟だけで、今回は特別な許可を受けた取材だ。「第1原発の視察者にもっと見てもらうべきではないか」。分析棟の帰り際、担当者に問うと、こう答えた。「処理水を入れた容器を第1原発に置き、視察者に線量を測って見てもらうようなことができないか、東電と話している。放射線量を測ることで、その弱さを分かってもらえるはず」。処理水やトリチウムについてもっと知ってもらう機会が必要だ。

https://www.minyu-net.com/news/sinsai/fuhyo-deep/FM20200212-458914.php

「東電と話している」というのは誰か。少なくとも東電ではない。同席しているのは経産省エネ庁木野氏と、記事にはある。
 福島民友の記事には「トリチウムが出す放射線の弱さ」が「目の前で見た」から「現場実態に合っていると感じられた」とある。
 しかし、目の前で見たのは「トリチウムが出す放射線」では全くない。
目の前で見たのはγ線であり、トリチウムが出すのはβ線だ。
 
 この詐欺のような測定が「安全キャンペーン」に効果的と感じた東電と国は、7月から視察コースに積極的に取り入れたのだろうか?

 東電は、自社の記事にくまなく目を通し、不利な記事があれば担当者に連絡し「ご説明をしたい」とする。記事が間違っていれば「訂正をしてほしい」と連絡する。

 ALPS処理水に関する記事は、記者が勝手に誤解をし、トリチウムのβ線を測定していないにも関わらず、γ線の低い値だけで「トリチウムが入った処理水の放射線量は低い」という記事を書いていることには、東電に都合の良い誤解であれば、何も訂正は申し入れないのだろうか。

また、今年の2月26日、IAEA グロッシ事務局長も全く同じ測定、ALPS処理水に日立TCS-172を近づけるという測定をしていた。
 原子力の専門家でもこのような子ども騙しの測定に引っかかるのか、もしくは十分な説明を受けていなかったのか?

 下記のメディアには、東電の用意した測定器で、ALPS処理水とラジウムボールを測定したあとの小見出しが「リテラシーを高める努力」とあった。
 他山の石としたい。

ニッポンドットコム 2020/10/30 配信

https://www.nippon.com/ja/japan-topics/g00976/?fbclid=IwAR1rt3vywBkX34IJgtRho9k0wXQXWIJ6ceVWxcq4GtwM7rnqu9dQdz1Ayio より

γ線の測定としても不十分、

 また、東京電力は「この測定はγ核種がALPSで十分に除去できていることを示すためでトリチウムの測定ではない」と何度も説明した。

 繰り返すが、そもそも液体を空間線量を測定する計器で測ることが間違っている
 また、この測定器で反応するレベルのγ核種が含まれていれば、おおごとである。この機器での測定でγ線が低いことがわかっても、ALPSの除去能力の証明にはならない。
なぜなら、ALPSは様々な核種を、告示濃度限度より下げること、それぞれの核種の告示濃度限度比の総和が1以下になることを目指しているが、
例えばセシウム134や137が、告示濃度限度を超えた100Bq/L入っていたとしても、この東電が用意した測定器では針が触れるわけはないのだ。

 γ核種ですら、告示濃度限度以下に除去できているかどうか、この詐欺のような測定では全く分からない。

 なのに、なぜ、このような無意味な測定を、国や東電は嬉々としてやらせるのか。
 どうせ意味が分からないだろうと、私たちは舐められているのだ。

 蛇足だが、ALPS処理水に含まれるβ核種はトリチウムだけではない。
C-14(炭素14,カーボン14)もβ核種だが、ALPSの除去対象の62核種に元々含まれていない。けれど、想定より残留しており、これをどう除去していくかまだ決まっていない。
 β核種は測定が難しく、昨年6月まで東電の測定員が少なかったため、C14などが欠測状態になっていたのだ。

 そのような状態で、γ核種だけ測定させ「安全性を確かめさせる」というのはいかに詐欺行為か伝わるだろうか。 

まとめ

 いったい、この詐欺のような測定を、いくつの取材や視察がおこなったのだろう。
 しかし、このような所業は何も初めてのことではない。
原発事故後、いや、原子力推進の現場では、何度となく目にする。

 国や企業の出す情報を鵜呑みにし、自らが調べることを怠ると、まんまと誘導されてしまう。

 本来なら、国は国民を守る立場のはずだ。
しかし、コロナ禍で、原発事故で、国は率先して国民を守っているだろうか?
常に権力や国を監視し、自らが知り調べ声をあげなければ、
残念ながら、酷いことがまかりとおってしまう。

しかしだ!

 この原発事故は、国が原子力を推進し、東京電力は事故を起こしたのだ。
筆者は原発事故の集団訴訟を様々取材しているが、国と東京電力は、加害側の立場だ。

 10月30日の生業訴訟(約3800人の原告数最大の集団訴訟)仙台高裁判決では「 東京電力による不誠実ともいえる報告を、国は唯々諾々と受け入れた」として、東京電力も国も大きな責任があるとされたのだ。

 ALPS処理水に関する、このような「不誠実」な測定は、東京電力だけでなく、国も率先しておこなっている。われわれが、理解できないと思って。

訂正履歴

2020/11/28 23:21 28日を26日に訂正

2020/11/28 23:25 28日を26日に訂正

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