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3行まとめ

・7月1日、永寿総合病院の院長の会見が日本記者クラブで行われた。

・院長は、感染拡大の原因を検査体制の不十分も一因と述べた。

・永寿総合病院の以前、和歌山の済生会有田病院は、県知事の指示で大量の検査を迅速におこなった。小池都知事の責任は重い。

永寿総合病院、湯浅院長の会見

7月1日、日本記者クラブにて、永寿総合病院の院長の会見があった。
筆者は視聴し、リアルタイムでほぼ書き起こした。

ちなみに、動画は日本記者クラブのYouTubeチャンネルにあがっている。

検査体制が明らかに不十分

会見中の質疑で、院長が検査体制が不十分だったことに何度か言及する。

「検査体制にも問題があった。当初は闘う手段が少なかった。
コロナを疑っても検査ができず、結果が何日も出ず、
それが続いたので闘いようがなかった。

必要な検査ができて結果がすぐ分かることが重要」

「 当初は、私も含め、保健所も、本当にそんな検査体制が必要なのかと思っていたのではないかと思う。今は違うが。」

下記は会見中でも言及していた永寿総合病院での感染発覚と検査数の推移だ。
3月20日に複数の発熱者が出て、21日に2名検査し、2日後に2名ともの陽性が判明する。
 そして、26日から全患者の、27日から全職員のPCR検査を始め、全ての検査結果を得るまで、その後9日以上を要しているのだ。
 時間がかかりすぎている。

 院長は、会見でも
「当院はPCR検査の設備を持たないため、迅速な診断ができず、このことも感染拡大の一因であったと考えています」とはっきり述べている。

>3月20日前後の発熱者<
>一つの病棟で、複数の患者様と看護師が発熱<

>保健所に相談し、3月21 日に発熱のある2 名の患者様に新型コロナウイルス感染症診断のための PCR 検査を施行<

>23日にPCR検査陽性(新型コロナウイルスの感染)が確認<

>24 日には 1 名の患者様と看護師1名の陽性が確認<

>25日には9名の患者様の陽性が確認<

>26日から全病棟の全ての患者様、 27日から全職員のPCR検査を開始 、全ての検査結果が得られるまでに 9 日以上を要し<

http://www.eijuhp.com/user/media/eiju_kenshin/layout/20200701siryou1.pdf

 そして、思い出されるのは、当時、まだ東京オリンピックが延期されていないことだ。
 3月19日の定例記者会見で、延期に「具体的にどうこういう段階ではない」と都知事はコメントしていた。そして24日にIOC会長と安倍総理と小池都知事とで、東京オリンピックの1年延期を合意し、25日に知事コメントを出す。
 ちょうどその時期に、永寿総合病院の感染拡大があった。

近隣への支援に感謝、慣れない職員奮闘に涙

 会見で院長は、支援や寄付が400件ほどあり、どれほど励まされたか述べ、涙を浮かべる。
 また、感染病棟に慣れない外来職員が、部署を越えて働いてくれたことに感謝し、「命の危険を感じながら元気に病棟に向かうその姿にかける言葉がみつからず 」とまた言葉を詰まらせ、涙を浮かべる。

 筆者は、会見を書き起こしながら、違和感を覚えた。

「感染病棟に慣れないスタッフにより散発的な感染が続いた」と院長は会見で同時に述べていた。

 支援や寄付は尊いことだが、ここは院長が涙ぐむだけではダメだ。院長は、一病院で対応できる問題ではなかった、と、抗議すべきなのだ。
 支援や寄付に感謝するだけではなく、なぜ公的支援がないのか、と抗議すべきなのだ。なぜ不慣れなスタッフが、命がけで立ち向かわねばならなかったのかと憤るべきなのだ。

 涙だけでは誰も救えない。院長は患者と職員の命を預かる責任ある立場として、そして、他病院への知見として、一病院だけに背負わされる問題ではない、なぜ自治体が、国が、もっと支援をしないのか、と声をあげるべきなのだ。

「 墨東病院など他の病院でもクラスターはあったが永寿ほどではなかった。永寿が他と違う理由は?」

 質疑応答でこのような質問があった。院長の回答は

「永寿は初期に発生した。他の病院と比べて甘い対処になったのではないかと思う。また、いろんな疾患の患者がいくつかの病棟にいた、それも原因ではないか」

と回答していた。

 そうだろうか?
 筆者は1月からCOVID-19(1月はまだそう名付けられていなかったが)を取材している。筆者が知る限り、日本での院内感染の最初は和歌山県の済生会有田病院だ。永寿総合病院の感染発生は3月20日だが、済生会有田病院の最初の感染確認は2月13日である。

「国の指針に従わない。和歌山はどんどん検査していく」

 筆者は2月、和歌山県知事の会見を追っていた。
「国の指針に従わず、和歌山独自で検査をしていく」と毎晩のように会見で発言していた 仁坂吉伸知事は、和歌山県だけでなく大阪府の検査機関も使い、院内感染だけでなく「県内の怪しい肺炎はみな検査せよという指示を出した」と言っていた。

 そして、院内で感染した医師だけでなく、その家族も検査をしていった。 そしてその中からも感染確認されていく。

https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/041200/d00203387_d/fil/20200302press.pdf
赤線は筆者

 各地の首長の会見を追っていた筆者だが、このような指示をしていたのは和歌山県だけではないだろうか。
(ちなみに、検査を推奨した仁坂吉伸知事だが、当時「無症状者は感染しない」と少し間違った認識を持っていたことも付け加えておく)
(また、コロナ禍に対して、もっとも迅速に手厚い対応を取った県知事として、鳥取県の平井伸治県知事の名も挙げておきたい。)

 和歌山県が検査を進めていた2月18日、ダイヤモンド・プリンセス号に和歌山から派遣されたDMATの隊員にも感染が見つかる。

https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/041200/d00203387_d/fil/20200218press1.pdf
赤線は筆者

 すると、県知事は、DMAT隊員全てに検査を指示する。和歌山県からダイ・プリ号に派遣されたDMATに加え、チャーター機の帰国者の対応のため、ホテルみかづきに派遣されていたDMATへの検査も指示したのだ。
(最初に発見された1名のみ陽性で、あとは陰性であった)

 また、この和歌山県から神奈川県に派遣されたDMATの行動経路を問われると、翌日に、新幹線の乗車席を出し「心当たりのある方は接触者として検査を受けてほしい」と述べていた。

医療従事者には優先して検査すべき。

 クルーズ船に派遣されたDMATに関しては、筆者は非公開文書を手に入れ、情報開示請求をし、記事を書いた。

 この非公開文書の「よくあるご質問」の中に

「船内で医療救護活動をおこなった後、PCR検査を行ってもらえるのでしょうか?」

という一文がある。
 筆者はこれを読んだとき、胸が詰まった。
 クルーズ船は、あろうことか、検疫官、厚労省職員、救急隊員が次々と感染していった。そこに派遣されるDMATの方々、尽力してくださる方々は検査をされるべきだ。
 このような質問を、DMATの方から発せられるような社会ではダメだ。

 ちなみにこの問いに対する厚労省の回答は「無症状の場合はPCR検査の対象ではありません」である。

医療従事者への「差別解消」は精神論ではなく、対策充実を

 永寿総合病院院長の会見では、医療従事者への差別に関する話題も出た。
 質疑でも「嫌がらせはあったか?」という質問も出た。

 日本医師会会見や、日本看護協会会見でも、たびたび言及されていた「医療従事者への差別」だが、筆者はこれは、精神論ではなく、国、自治体の対策不足も大きいと考える。

(永寿総合病院の職員の手記より)

 家族がいる私も、自分に何かあったときにどうするかを家族に伝えました。 幼い子供を、遠くから眺めるだけで、抱きしめることができなかったスタッフ、 食事を作るために一旦は帰宅しても、できるだけ接触しないようにして、ホテル に寝泊りするひとり親のスタッフもいました。

http://www.eijuhp.com/user/media/eiju_kenshin/layout/20200701siryou2.pdf

 この手記には本当に胸が詰まる。命がけで尽力してくださった医療従事者の方々には本当に感謝しかない。しかし、感謝だけではなく、対策をとるべきなのだ。
 筆者も、他病院の医療従事者で、車中泊や自前でホテル泊していた方々の取材もした。なぜ、このような状況になるのか。

 1月からの中国の報道で、COVID-19は、医療従事者への感染が多いことはすでに大きく報告されていた。 

 BBCの報道では、COVID-19対応の医療従事者が、数か月ぶりに幼子と抱き合うニュースが何度も放映された。イギリスでは、COVID-19対応の医療従事者には無償でホテル宿泊が提供されるのだ。

 車中泊などではなく、「できるだけ家族と接触しないように」ではなく、医療従事者と、その家族が守られるよう、無償の充実した宿泊の政策を、国や自治体が取るべきだ。

 また、イギリスでは、医療従事者だけでなく、社会を支えるエッセンシャルワーカー(食料品の店員やバスの運転手など)やその家族にも、迅速にPCR検査が受けられる仕組みもある。

 迅速に大量に検査をする体制としては、中国のブレンドテスト方式もある。
 韓国のドライブスルー方式をイギリスやドイツや多くの国が取り入れていった。
 日本は、他国の良い政策を模倣するチャンスがあるにも関わらず、その機会を生かせていない。

「医療従事者への差別をなくそう!」という精神論の号令だけではなく、本当に差別をなくしたいのなら、対策が必須なのだ。

 医療従事者の方々と、そのご家族を守るために、宿泊所の無償提供などの環境を整えること、医療従事者の方々とそのご家族のPCR検査の体制を整えることなどの対策が必須だと筆者は考える。

ダイヤモンド・プリンセス号とコスタ・アトランチカ号

 検査体制の大きな違いとして、横浜港に停泊していたダイヤモンド・プリンセス号と、長崎港に入港していたコスタ・アトランチカ号についても言及しておきたい。

 2月3日から検疫をおこなっていたダイ・プリ号では検査は遅々として進まなかったが、4月20日に1名の感染者を見つけたコスタ・アトランチカ号は、その後25日までに623名全員の検査結果を出す。

 筆者は当時の長崎市の会見も追っていたが、市は長崎大学の熱帯医学研究所と連携し、PCR検査ではなくLAMP法で迅速に検査を進めた。感染者は149名であった。

 長崎市の会見では、市中感染や医療体制の崩壊も懸念されていたが、迅速で大量の検査、船全体をレッドゾーンとする適切な隔離、そして医療従事者・自治体関係者らの尽力で、ダイ・プリ号のような大問題にはならなかった。

永寿総合病院は、未来のために、他病院のために、涙ではなく怒るべき

 筆者はコロナ禍の取材を続けているが、自治体判断で対応は大きく異なる。

 初期に、PCR検査の関門となっていた保健所は、厚労省ではなく、都道府県管轄だからだ。

 2月に北海道で感染拡大していたとき、当初、かたくなに情報を開示しなかった北海道知事に対し、情報開示が感染防止につながると会見をおこなっていった札幌市長の違いは興味深かった。

 札幌市が政令地方都市として保健所を持っていたため、そのような対応がとれたのだ。なので当時、北海道での陽性判明者は、札幌市で判明した方だけ詳細がわかるという、変わった状況になっていた。

 永寿総合病院の院長は、はっきりと「 コロナを疑っても検査ができず、結果が何日も出ず、それが続いたので闘いようがなかった」と述べている。

 これは、保健所の設置主体の小池都知事に抗議すべきことなのだ。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/hokenjo/h_13.html
赤線は筆者
永寿総合病院のある台東区の保健所の設置主体は「東京都」である

なぜ、和歌山県の済生会有田病院のように、検査をしてくれなかったのか、と。
知事の判断で検査ができたではないか、
と。

 そして、一病院の「自己責任」ではなく、国や自治体の支援が必要だと。
職員が足りなくなれば、慣れない職員が携わり感染拡大を待つのではなく、何らかの支援が必要だと。

(これは介護施設などにも同様の問題が生じるのだから!)

 できるだけ家族と接触しないようにホテルに寝泊りする職員の手記を紹介するのなら、国や自治体が、他国のようにコロナ対応をする医療従事者の宿泊を無償提供すべきだと。

 近隣の支援に感謝するだけでなく、なぜ、国や自治体からの十分な支援がないのかと。

 それが、永寿総合病院の院長こそがすべきこと、できることだと筆者は考える。
今後、同じような問題を、悲劇を繰り返さないために。

報道の役割

 院長の会見の質疑応答では、これぞ、と思う質問は少なかった。
逆に、なぜ今そんな質問を、と感じるものも多かった。
 会見で質問をするということは、市民の知る権利の代行をするということである。
「人類と感染症についてどう思うか?」「今度、人間ドッグいこうと思います」 「嫌がらせはあったか?」 などと質問するより

・検査体制が不十分だったことが感染拡大の原因というなら、どのような体制であれば十分であったか
・どのような公的支援があれば、職員や患者を守ることができたと考えているか
・職員が次々と足りなくなる状況で一病院での対応は無理というなら、どのような支援の体制がありうるか

 そのような質問をし、永寿総合病院の悲劇・美談としてニュースを終わらせるのではなく、このような問題を二度と繰り返さないために、今後、何ができるかという情報を引き出すべきだと、筆者は考える。

 永寿総合病院の院長が、初めて会見に応じて質問に答えてくれるという貴重な機会のニュースは、涙や垂れ幕の情緒的な報道に終わらせるのではなく、永寿総合病院の院長はじめ、医療従事者や未来を救うための報道にすべきだと筆者は思う。

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