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【感想】国連特別報告者の指摘への、政府側の反論が間違っていたことについて。

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10月 27, 2018
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3行まとめ

・国連の特別報告者が、25日の国連総会で、福島第一原発事故の日本政府の避難解除の基準はリスクがあると指摘。

・NHKの記事では、政府の被災者生活支援チームが「特別報告者の指摘は誤解」と反論。

・しかし、その政府の被災者生活支援チームのコメント自体が、ICRP2007年勧告と避難解除の考え方を理解しておらず、間違っている。

 

国連の特別報告者 福島への子どもの帰還見合わせを求める

2018年10月26日、NHKのサイトに「国連の特別報告者 福島への子どもの帰還見合わせを求める」という記事が掲載されました。

そこに、政府「指摘は誤解に基づいている」と、反論が掲載されていました。

政府「指摘は誤解に基づいている」

トゥンジャク特別報告者の批判について、政府の原子力被災者生活支援チームは、「ICRPの勧告では避難などの対策が必要な緊急時の目安として、年間の被ばく量で20ミリシーベルトより大きく100ミリシーベルトまでとしていて、政府は、そのうちもっとも低い20ミリシーベルト以下になることを避難指示解除の基準に用いている。また、除染などによって、長期的には、年間1ミリシーベルトを目指すという方針も示している」と説明しています。

そのうえで「子どもなどの帰還を見合わせるべき」という指摘については、「子どもたちに限らず、避難指示が解除されても帰還が強制されることはなく、特別報告者の指摘は誤解に基づいていると言わざるをえない」と反論しています。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181026/k10011686691000.html

この被災者生活支援チームのコメントは、ICRP2007勧告をもとにした避難解除の考え方を理解しておられないので、解説します。

 

ICRP2007年勧告での放射線防護の考え方

記事には下記の文章が出てきます。

日本政府の担当者は、この基準は専門家で作るICRP=国際放射線防護委員会が2007年に出した勧告をもとにしており

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181026/k10011686691000.html

2007年勧告では、放射線防護方策の捉え方として、状況を3つに分ける考えが出ました。

緊急時被ばく、現存被ばく、計画被ばく、の3つです。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001w5ek-att/2r9852000001w5ss.pdf

こっちのほうが分かりやすいかもしれません。

https://www.env.go.jp/chemi/rhm/kisoshiryo/attach/201510mat1-01-135.pdf

 

避難解除は「現存被ばく状況」で

ここで重要なのは、2011年の原発事故発災時の避難基準は「緊急時被ばく」の【20-100mSv/年】のうち、最小値の20mSv/年なのですが、

避難解除は「現存被ばく」の【1-20mSv/年】のうち、最大値の20mSv/年なのです。

同じ、「年20ミリシーベルト」でも意味合いが違うのです。

 

(下記のように、避難解除は、現存ひばくの考え方が用いられています)

https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-09-04-02.html

政府の原子力被災者生活支援チームのコメントの間違い

「ICRPの勧告では避難などの対策が必要な緊急時の目安として、年間の被ばく量で20ミリシーベルトより大きく100ミリシーベルトまでとしていて、政府は、そのうちもっとも低い20ミリシーベルト以下になることを避難指示解除の基準に用いている。」

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181026/k10011686691000.html

なので、上記のコメントは、「緊急時被ばく」と「現存被ばく」を混同しています。

コメント前半部分は「避難の緊急時の目安」として「20-100mSv/年」と、緊急時被ばくについて言及していますが、

避難解除の基準に用いているのは、現存被ばくの「1-20mSv/年」のため、

「そのうちもっとも低い20ミリシーベルト以下」という言葉にはあてはまりません。

「年間の被ばく量で1ミリシーベルトより大きく20ミリシーベルトまでとしていて、政府は、そのうちもっとも高い20ミリシーベルト以下になることを避難指示解除の基準に用いている。」が正しいです。

 

ですので、「特別報告者の指摘は誤解に基づいていると言わざるをえない」ではなく、

この反論をした被災者生活支援チームの方が、ICRP2007年勧告の現存被ばくと避難解除について、理解されていないのです。

 

感想

取材をしていても、原発事故後数年は、省庁の方々も把握しておられましたが、現在は理解されていない方が多く、

今回のような間違った説明をされる方もおられます。

違いますよね、と追及すると、後で訂正されることもあります。

農民連の方々の政府交渉の、環境省の方だったでしょうか。

 

原子力被災者生活支援チームが、国連の特別報告者の指摘に関して反論するときくらいは、間違えないで頂きたいです。

以前、ドイツで放射線防護庁の方を取材した際、日本の避難解除の基準の話題になったときは、ちゃんと把握してらして、

「現存被ばくの最高値で避難解除をするのか、日本の国民はそれを受け入れたのか」と言われました。

 

また、過去にICRPの元関係者と雑談をしていた際、次のようなことを言われました。

「ICRPは、研究者はこう考えますよ、というガイドラインを決めているにすぎず、絶対唯一の基準を定めているわけではありません。

アメリカなどはICRPではなく、自国の委員会に基づくときもありますしね。

原発事故後の日本政府は、何もかも『ICRPがこう言っている』とICRPのせいにしていると思います。

ICRPは単なるガイドラインで、その幅の中から、それぞれの国が、社会的、合理的、経済的などから達成可能なところを決めてください、と言っているだけです。

ドイツなど、国民が強い国は、ガイドラインの中から低い値を選ぶでしょう。

つまり、民度の低い国は、国民はより被ばくするんです。

日本は、私が思っていたほど、民度は高くなかったですね。」

 

少なくとも、ICRPの勧告を用いるなら、政府関係者は、その意味を理解してほしいと思いました。

そして、間違った説明をしているときは、ただちに訂正を求めていきたいです。

 

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