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メルトダウン公表遅れは「いつもの」第三者委員会のみが調査

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3行まとめ

・2011年、福島第一原発事故のメルトダウンの公表が2カ月遅れたことを、東京電力は5年後の2016年に公表・謝罪した。

・この問題に関して、東京電力は第三者委員会を設置したが、委員は国会事故調虚偽報告第三者委員会、ドリル優子第三者委員会とかぶっている。

・現在、新潟県技術委員会のみが原発事故検証をし、原子力規制委員会は何も動かない。

メルトダウン公表遅れの経緯

2011年3月、福島第一原発の1号機、2号機、3号機はメルトダウン=炉心熔融した。

東京電力がメルトダウンを公表したのは、2011年5月24日である。(1号機は5月15日に暫定評価を公表している)

筆者は、2011年4月から東京電力の記者会見に参加し続けているが、当時、多数の記者からの「原子炉はメルトダウンしているのでは?」という質問に、東京電力も内閣府も原子力保安院も「メルトダウンの定義がない」と回答し続けていた。

 

しかし、東京電力が作成した「原子力災害対策マニュアル」によると、2011年3月14日早朝には、メルトダウンを判定できた。

マニュアルでは、燃料が5%損傷すれば炉心溶融(メルトダウン)と判定すると明記されていた。

2011年3月14日早朝に、原子炉格納容器内の放射線量の監視計器が回復し、燃料損傷の割合は、1号機で55%、3号機で30%に達していたことはわかっていた。

この時点でメルトダウンは判定できたのだ。

このメルトダウンの公表遅れを東京電力が報告したのは、5年後の2016年2月24日である。

福島第一原子力発電所事故当時における通報・報告状況について

 

追及しているのは新潟県だけ

東京電力がメルトダウンを把握しながら、なぜ公表が2カ月も遅れたのか。

そしてこの重要な問題がなぜ5年後の2016年に出てきたのか。

 

このメルトダウン公表遅れ問題をあぶりだしたのは新潟県である。

旧・原子力保安院でも現・原子力規制庁でも、国会事故調査委員会、政府事故調査委員会でもない。

現在、新潟県の原子力発電所の安全管理に関する技術委員会だけが、福島第一原発事故の検証をし続けているのである。

 

それはなぜか。

新潟県の柏崎刈羽原発を再稼働させたい東京電力。

しかし、再稼働する前に、福島第一原発事故の検証がまだ終わっていない、この事故の知見が反映されないのなら原発を再稼働すべきでない、と主張するのが泉田裕彦新潟県知事である。

泉田新潟県知事のもと、新潟県の技術委員会だけが、現在、原発事故の検証をし続けているのだ。

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2013年9月25日、新潟県庁にて会談する泉田新潟県知事と廣瀬東京電力社長(撮影:おしどりケン)

 

そのせいか、今年2月24日に、メルトダウン公表遅れのプレスリリースで、謝罪したのは新潟県に向けてのみであった。

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http://www.tepco.co.jp/press/release/2016/1271095_8626.html より

「深くお詫び申し上げ」るのは、新潟県技術委員会に向けてだけなのだろうか?

2011年3月4月5月の記者会見で、ずっと「メルトダウンの判定基準が無い」と回答し続け、この問題を5年後まで公表せず、新潟県が追及しなければ隠しとおすつもりだったのだろうか?

 

この問題を、新潟県技術委員会は、日本全国の問題としてとらえている。

東京電力の2月24日の公表を受けて、3月23日の委員会議事録から抜粋する。

(事務局:市川原子力安全広報監) 13P
今回このメルトダウンの公表についての検証、なぜ行っているかと いうところについてでございますが、メルトダウンという非常に原子力発電所で事故が起こった時 に重大な事象、これは正確に判断されて、迅速に公表されないと住民の皆様に適切に避難していた だく、もしくは屋内に退避していただく、こういう対応を取ることができないというのが問題の根 底にございます。そういう問題意識を持っております。そのためにはメルトダウンを隠ぺいした背 景であるとか、指示系統、こういったところを解明して検証・総括を行わないと将来においてまた 同じことを繰り返してしまうという配慮、という事でこれまで議論をしてまいりました。
(佐藤委員) 38P
そういう国民を全然信用して いないというところが国の一番上からの態度だとするならば、これは東京電力さんも他の電力さん も何をしようとも改善できない問題だと思います。そこもどうしていくのかというところをどこか の場で議論しないと、絶対にこれは解決不能の問題だと思います。
(立石委員) 44P
この課題の検証についてはぜひとも、国に対しても県か らの要望書、あるいは意見書、あるいは質問書、こういうものをぜひとも出していただきたいと。 このプロセスを解明するのには、特に公表が遅れてきたプロセスにおいては、国の役割非常に大き かったと。圧力の問題はいろいろやりとりがあるかもしれないけども、そうではなくてメルトダウ ンというこれについて国のほうは定義がなったというふうに今でも言うのかどうか。知らなかった と言うのかどうか。ここについて国のほうの見解を明らかにさせる必要がある。私が見ていると今 回の東京電力の記者会見での公表の後何も言っていないと。国のほうとしては。あるいは規制委員 会としても何も言わない。これもまた私には理解できないというか、非常に重要なポイントだと思 うのですが、そういう意味ではぜひとも県のほうから検証、あるいは質問書を出していただきたい。

 

本当にメルトダウン判定基準を誰も知らなかったのか?

当時の保安院にも内閣府にも報告しなかった東京電力。

当時、東電社内の原子力災害対策マニュアルのメルトダウン判定基準を、本当に誰も把握していなかったのだろうか?

筆者は何人も優秀な東電技術者が参加している記者会見で、誰一人マニュアルを把握していないとは信じられない。

その旨を2016年4月11日の記者会見にて質問した。

当時の会見者のことはわからないが…と回答した岡村祐一・原子力立地本部長代理に、筆者は重ねて質問した。

ーーでは岡村さんはご存じなかったのか。あなたは2011年3月当時、福島第一原発の4号機にいた。

現場にいたあなたはメルトダウンの判定のマニュアル、燃料損傷5%が熔融の判定基準とういことをご存じなかったのか。

すると岡村氏は「私は把握していた」と回答した。

(会見書き起こし:「2011年3月にメルトダウンの定義を把握していた」という回答はマコちゃんが引き出しました

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2016年4月11日「私は把握していました」と回答した東京電力・岡村祐一原子力立地本部長代理。(撮影:おしどりケン)

 

本当に第三者委員会!?

現在、メルトダウン公表がなぜ遅れたか、東京電力が選定した弁護士3名による第三者委員会が調査をしている。

どのようにその3名を選定したのか。

筆者は何度も東京電力に質問したが、第三者委員会の選定基準は「様々な経験」としか回答しない。

「はい。あのー、具体的選定基準と言われるとアレなんですが、基本的に法律の専門家としてのご経験というところで、当社の方からお願いしたという事です。」

「それも、あの『法律の専門家としての、様々なご経験』としか、申し上げ様がないんですけども。」

「あの、特に具体的な選定基準といったものがあるわけではございません様々なことを勘案してお願いをしてお引き受けいただいた方が、このお三方という事です。」

会見書き起こし:2011年3月14日テレビ会議動画の会話で既に炉心損傷程度5%を基準とした会話があったが、把握してましたか? より

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選定基準は「様々なことを勘案して」と説明する東京電力・石橋すおみ氏(撮影 おしどりケン)

第三者委員会のメンバーとは下記である。

田中康久弁護士、(元・仙台高等裁判所長官、元・法務省公安審査委員会委員長)

佐々木善三弁護士、(元・最高検察庁検事、元・京都地方検察庁検事正)

長﨑俊樹弁護士、(最高裁判所司法研修所教官、法務省新司法試験考査委員)

「福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会」の設置について

第三者はいつものメンバー?

筆者は、この東京電力が選定した第三者委員会のメンバーに疑問を抱いている。

なぜなら、3名のうち2名は、2013年も東京電力の第三者委員会を経験しているからだ。

国会事故調査委員会へ虚偽の説明をしたかどうかを調査する、東京電力が設置した第三者委員会に田中弁護士と佐々木弁護士は入っている。

国会事故調への東京電力株式会社の対応に関する第三者検証委員会

そしてこの第三者委員会は「国会事故調への報告は虚偽ではない。事実に反する説明をしたが、勘違いによるもので、組織的関与はない。」と報告する。

この2013年の東京電力が任命した第三者委員会の3名のうち2名が、今回の第三者委員会を再任するのだ。

本当に第三者だろうか。

田中&佐々木は第三者コンビ

この再任の2名の弁護士の組み合わせは、筆者は見覚えがある。

小渕優子議員の政治資金収支報告書の虚偽記載、あのパソコンのハードディスクがドリルで破壊されていた際の調査の第三者委員会のメンバーなのである。

本当に第三者?小渕優子氏 疑惑調査で甘い報告

小渕元経産相にからむ政治資金規正法違反事件 検証の弁護士「小渕氏に法律上責任なし」「パソコン破壊は業者がドリルで…」

ドリル優子事件 「無罪放免」のお墨付き与えた第三者委の詭弁

通称 メンバー

結果

2013 東京電力
国会事故調虚偽報告第三者委員会

委員長:田中康久 佐々木善三 
近藤卓史

虚偽ではなく勘違い。
組織的関与はない。

2015 ドリル優子第三者委員会

委員長:佐々木善三 田中康久 
野口光夫

パソコンを破壊したのは業者。
小渕氏に法的責任は無い。

2016 東京電力
炉心溶融公表遅れ第三者委員会
委員長:田中康久 佐々木善三 
長﨑 俊樹
現在、調査中。
(しかし、報告は予想がつく?)

 

東京電力が第三者委員会の選定基準を明確に説明せず、いや「様々なことを勘案して」田中康久弁護士、佐々木善三弁護士を選定したのは偶然ではなく必然なのだろうか?

第三者委員会に司法だけでなく技術者を

前述の新潟県技術委員会にて、下記のような要望もある。

(吉川委員) 37P
技術関係者が東電社内だけだと司法の方だけだと内容がわからず、東電技術者の説明するトーンも合わせられる可能性もあるので、何でそういうふうになって いったのか第三者委員会に技術者も入ってもらい、経緯がちゃんとわかるようにしていただきたい。
4月19日の東電定例会見にて、筆者はこの件を問うた。

ーー新潟県技術委員会では、第三者委員会に司法だけでなく第三者の技術者も入れるべきだ、と指摘があるが、反映するのか?

東京電力「そういったご意見が技術委員会の中であったという事は承知してますけれども、一度始めたものでやらせていただいているところでございます。」

「いったん始めてしまったので」と回答する東京電力・宍倉氏
「いったん始めてしまったので」と回答する東京電力・宍倉氏

 

 

動かない原子力規制庁

この問題に関して、原子力事業者の規制側である原子力規制庁は調査をしない。

田中俊一原子力規制委員長は、メルトダウンの判定基準を把握していなかったのは旧・保安院のことだ、現在の原子力規制庁は懸念は全て払拭できると思う、と繰り返すのみである。

筆者が印象的なのは、3月2日の原子力規制委員会会見にての質疑である。

FACTAの宮嶋氏の質問はこうだ。

東電が炉心損傷という言葉、メルトという言葉が公表できなく なったのは、この組織の前身の保安院の広報課からそういう指示があったわけで、その 大もとの蛇口を絞っていたのは首相官邸であったというのは、もう政府の事故調でも明 らかになっているわけですね。 だから、逆に伺いたいのは、こういうシビアアクシデント。それで、そういう事故調 が出た後、泉田さんが総括・検証ということを言って初めて出てきた事実なわけなので すが、その点をどう御覧になっているのか。 やはり、旧組織であるとおっしゃいますけれども、基本的にここの組織は保安院の方 がやっているわけなのですけれども、やはりこの組織も、もう少し検証と総括というの をすべきなのではないかと私は思うのですけれども、今の点も東電に調べさせるのでは なくて、こちらで独自に調べたらいいと思うのですが、その点はいかがでしょう。

https://www.nsr.go.jp/data/000142270.pdf より

に関して田中俊一委員長はこう回答する。

その原因を追求したことで、何かポジティブなことが起こるというか、も う十分そういうことを踏まえて対応をしているので、私自身はそこまでそういうことを やるだけの時間的余裕もないし、やって何か生み出すということでもないと思う。 だから、今、ミヤジマさんがおっしゃったような、旧保安院とか政治の関与とか、そ ういうことを、いろいろ今、我々の立場から何か暴き出すことが、どこまでやれるのか わからないし、やることにはそんな意味があるとは私自身は思っていません。

https://www.nsr.go.jp/data/000142270.pdf より

田中俊一原子力規制委員長(撮影 おしどりケン)
田中俊一原子力規制委員長(撮影 おしどりケン)

まとめ

現在、新潟県のみが追及している福島第一原発事故。(国の追及は終了しているところも問題である!)

「メルトダウンという深刻な状態が適切に判定され、迅速に公表されないと、避難や退避の対策がとれない」と問題視する新潟県技術委員会。

メルトダウンの公表が遅れた経緯を調査する第三者委員会のメンバーは東京電力が選定し、第三者といいながら、いつものメンバー。

本来、原子力事業者を監督するはずの原子力規制委員会は「時間的余裕もないし、調査する意味もない」と動かない。

 

これが、レベル7を3件引き起こした、世界最大のシビアアクシデント、福島第一原発事故のメルトダウンの公表が遅れたという重大な問題についての現状である。

(全文の転載は禁止いたします)

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会見後、ぶら下がり取材する筆者(撮影 おしどりケン)

 

 

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