3行まとめ

・1月6日、北朝鮮による水爆実験が行われたと発表があった際、原子力規制庁からWSPEEDIによる放射性物質の拡散予測が出された。

・その拡散予測は毎時 1Bqの放射性物質を、24時間放出し続けた場合、という「仮定」によるものであった。

現在、福島第一原発から「事実」として放出されている放射性物質には、拡散予測は出されていない。

 

核実験発表後のWSPEEDI

1月6日の北朝鮮の水爆実験実施の発表を受け、原子力規制委員会では観測結果を発表してきた。

北朝鮮による核実験実施発表に対する放射能影響の観測結果について

1月6日から15日までの間、発表されていたが、異常な値は検出されなかったため、15日を持って終了とされた。

20160106_ (2)

6日18時すぎの臨時会見 (撮影:おしどりケン)

 

筆者は1月6日18時過ぎの原子力規制庁の第1報の臨時会見に参加した際、声を出して驚いた。

WSPEEDIによる放射能観測予測が公表されたからである。

北朝鮮が水爆実験の実施を発表したのは、日本時間10時半である。

その8時間後にはWSPEEDIによる拡散予測が公表されたのである。

福島第一原発事故の際は、SPEEDIによる放射能拡散予測は切望されていたが公表されなかった。

しかし、今回は数時間後には公表されたので、筆者は驚いたのだ。

用語解説

SPEEDI(System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information)

緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム

WSPEEDI(Worldwide version of System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information

世界版緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム

 

この拡散予測は「通常、地下の核実験では大気中に放射性物質が放出されることはないが、

毎時 1Bq、放射性物質が大気中に漏れ出たと仮定した場合の拡散予測」というものであった。

 

その説明を聞き、筆者はまた驚いた。

毎時 1Bqで拡散「予測」を出すが、現在、福島第一原発から常時放出されている放射性物質については、出さない。

これは「予測」ではなく、結果・評価にもつながるのだが、出さない。

 

1月6日21時半頃に発表された第2報では、日本列島を覆う拡散予測が発表された。

 

現在の「追加的」放出量評価

それでは現在、福島第一原発からどれくらい放出されているか。

それは毎月、東京電力が評価して発表している。

最新のものは1月19日に出ている。

原子炉建屋からの追加的放出量の評価結果(2015年 12 月)

これによると2015年12月の「追加的」放出量は、毎時 5.7×10^5Bq未満、つまり毎時 57億 万Bq未満、となっている。

「未満」というのは放出量を検出限界以下、と考えて、最大の放出量を検出限界と評価しているのである。万

「追加的」というのは、2011年の原発事故時に放出されたものではなく、現在、追加的に大気中に放出している量の評価だからである。

 

これを見ると、2015年の追加的放出量は、10の5乗から6乗の間を推移している。

つまり、毎時 数十万Bq~数百万Bqの放射性物質を大気中に放出しているのである。

 

検出限界値以下を放出量の最大値とする評価方法は保守的で、必ずしも実際の放出量とは一致しない可能性もある。

しかし、検出限界値ではなく、大気中に漏れている放射性物質も実測として観測されている。

 

毎月出される原子炉建屋からの放出量の評価結果から《評価》を抜粋する。

【2015年12月の評価】

11月と比較して1号機及び4号機は,先月の放出量評価結果とほぼ同等であった。

2号機は,建屋内の除 染作業に伴い排気設備入口の空気中放射性物質濃度が増加したため,放出量が増加した。

3号機は,機 器ハッチにおいてサンプリング時間を延伸したことにより,検出限界値が下がり放出量評価値が減少した。

http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/smp/2016/images/additional_amount_160119-j.pdf

【2015年11月の評価】

10月と比較して1号機及び4号機は,先月の放出量評価結果とほぼ同等であった。

2号機は,ブローアウト パネルの隙間における月一回の空気中放射性物質濃度測定値が増加したため放出量が増加した。

3号機 は,原子炉直上部における月一回の空気中放射性物質濃度測定値が減少したため放出量が減少した。

http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/smp/2015/images/additional_amount_151217-j.pdf

 現在の評価方法に切り替わってからの評価の推移を【資料まとめ】に抜粋したので、興味のある方は参照して頂きたい。

 

これを見ると、実測値として現在も、福島第一原発から大気中に放射性物質が放出されているのがよくわかる。

北朝鮮からの「仮定」の毎時 1Bqの放射能拡散予測は迅速に発表された。

福島第一原発からの「実測」の毎時 数10万Bq~毎時 数100万Bqの放射能拡散予測は発表されない。

 隣国の地下核実験より、国内の原発事故の方が、はるかに影響は大きいが、その評価はされないのが現状である。

 

余談:2011年の大気への放出量

筆者が、初めて東京電力の記者会見にて、質問したのが、大気への放射性物質の放出量である。

2011年4月当時、東京電力からの発表はなく、記者会見でも質問が無かった。

大気中へ一切放出されているのなら、その概算の発表を、と筆者は質問し続け、2011年7月にやっとその回答が出た。

2011年7月時点で毎時10億Bqの放出量であった。

では、筆者が初めて質問した4月当時はいくらだったか問うと

4月4日~6日の間は毎時 2900億Bqの放出だったと回答があった。

(その部分の質疑を抜粋したものを【参考資料】にまとめたので興味のある方はご覧頂きたい)

そして、その値はこのような表になる。

 

2011年7月になって、福島第一原発からの放射性物質の放出量が公表された。

しかし、当時は、「福島第一原発から、放射性物質はもう出ていない」と断言する「有識者」も存在した。

「低線量被ばくのモラル」(河出書房出版社)には、2011年7月8日に東京大学にて開催された東京大学緊急討論会の書き起こしが掲載されている。

そこで中川恵一 医学部放射線科准教授がおこなった発表に対し、影浦峡 教育学研究科教授(計算言語学博士)がたびたび問うている様子が書いてある。

抜粋する。

影浦峡「…現在、福島第一原発から放射性物質は出ていないと言われましたが、それを証明するデータはあるのでしょうか…」(257P)

 

影浦「…福島第一原発が放射性物質を出していないということについてのデータは?」(259P)

中川恵一いま、福島では大気中の放射性物質はほぼ検出されていない。

影浦「いまというとき、タイムスパンはいつからですか」

中川「かなり前です。文部科学省が毎日、数値をだしていますね。その中では事実上ずっと出ていない、かなり前から。

私も工学部の原子力工学の方々との交流がありますが、彼らが実際に測定しているのですね、海洋と大気に関しては。

島薗進「まだ原発の周辺に相当な放射性物質が散らばっていて、風で飛んだりするのではありませんか。時々蒸気も出ているようですが。

中川「いや、それはない。ともかく、福島市にしても、浪江町にしても、大気中から放射性物質は検出できていません。かなり前からです。

いつからなどということは覚えているわけがないので。逆に言えば、ホームページを見て頂ければ、さかのぼって絶対に記録してあるはずですが。」

 

筆者は、2012年にこの書籍を読み、驚愕した。

これだけ、現状に即していない発言を堂々とされる「有識者」がおられたことに驚いたのだ。

ちなみに、島薗氏が言及しておられる「時々蒸気も出ているようですが」の部分だが、その水蒸気に放射性物質が含まれていることは、

2011年4月19日の段階で、筆者が東京電力の記者会見にて質問し、それは東京電力も認めている。

そして、「原発の周辺に相当な放射性物質が散らばっていて、風で飛んだりするのではありませんか。」という質問にも

「それはない」と答えておられるが、原発事故から5年後の2016年1月においてさえ、福島第一原発の敷地境界のモニタリングポストが

ダンプカーが舞い上げた土埃により、警報が鳴るような状態であることを付け加えておく。

 

http://www.tepco.co.jp/nu-news/2016/1265951_7788.html 1月17日日報より抜粋

※1月13日午後0時39分、福島第一原子力発電所敷地境界付近のモニタリングポストNo.7近傍(敷地南側)に設置しているダストモニタにおいて、ダスト放射能濃度の上昇を示す「高警報(警報設定値:1.0×10-5Bq/cm3)」が発生。

当該ダストモニタ「高警報」が発生した時間帯に、ダストが上昇する作業の有無について追加調査を行ったが、発電所構内において該当する作業は確認されなかった。

MP7近傍の道路等の砂塵(土埃)について分析したところ、セシウム134およびセシウム137が検出された(それ以外の核種は検出限界値未満)。
<分析結果>
(1)発電所構外MP7近傍道路路面砂塵(土埃)

 ・セシウム134:4.7×105Bq/kg
 ・セシウム137:2.1×106Bq/kg
(2)発電所構外MP7近傍道路法面土砂
 ・セシウム134:1.9×104Bq/kg
 ・セシウム137:8.9×104Bq/kg

当該ダストモニタ「高警報」が発生した原因は、発電所構内の作業に伴うものではなく、発電所構外(南側)に位置する道路をダンプが通過した際に砂塵が舞い上がり、局所的に上昇したダストをMP7近傍のダストモニタが検知したものと推定。なお、当該道路の砂塵(土埃)の除去等について、今後検討していく。

 

現在も、福島第一原発周辺では、セシウム134が47万Bq/kg、セシウム137が210万Bq/kgという高濃度汚染された土壌で、

それが、ダンプの通行により舞い上がり、ダストモニタの警報が鳴る、というのが現状である。

 

繰り返すが、隣国の核実験より、国内の原発事故に対して、拡散予測を出してほしい。

そして、「有識者」の言葉に惑わされず、一次情報を読み取る技術を、私たち自身が身に付けねばならない。

(はからずも、中川恵一氏自身も同様のことを発言している、が、筆者は中川氏は本当に「ホームページの値」をチェックされていたのか疑問である。

また同時期に、政府・東京電力合同対策室会見にて、筆者は大気中への放射性物質の放出量を3か月質問し続け、

東京電力はずっと「評価中」との回答で、放出していない、とは一切回答はしていなかったことを中川氏は知らなかったのか。

「放射性物質は出ていない」と発言した中川氏は、飯舘村など福島県の自治体に「アドバイザー」として入っておられたことも付け加えておく。)

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規制庁の臨時会見にて (撮影 おしどりケン)