3行まとめ
・2024/7/18 福島労働局富岡労基署が、福島第一原発での作業の「労災隠し」の書類送検を公表。
・3次請けの作業員の休業2か月(右足首骨折)の労災隠しだが、
2次請けの現場監督が主導し、悪質性が高い労災隠しと、労基署は判断。
・2022/2/17の事故の労災隠しだが、東京電力は福島第一で負傷者が発生したことも把握しておらず、
初めて知ったのは、元請けの日立GEから連絡を受けた2023/10/5であった。
更新履歴
2024/7/19 19:50 元請け日立GEから東京電力が報告を受けた日時の記載が、
4か所のうち2か所が間違っていたので訂正しました。
誤)2023/10/15
正)2023/10/5
2024/7/19 21:15 以下の文言を修正いたしました
誤)労働者死傷病者報告
正)労働者死傷病報告
労災隠しで3名が書類送検される
事業者は、4日以上の休業を伴う労災が発生した場合、「労働者死傷病報告」を「遅滞なく」労基署に提出しなければならない。(労働安全衛生法第100条、労働安全衛生規則第97条)
休業が4日未満の場合は簡略的な報告書だが、死亡を含む、4日以上の休業災害の報告書は状況や略図、休業見込みなど詳細な報告書を「遅滞なく」提出しなければならない。
その労働者死傷病報告の提出が遅れ、労基署が調査した結果、悪質な労災隠しが判明し、3名が書類送検された。
ちなみに負傷した作業員は30代男性、右足首骨折で2か月の休業で、休業4日どころではない。
なぜ二次請けも「被疑者」なのか
労基署が書類送検した3名は、3次下請け「株式会社YAMATO」の代表取締役A、
2次下請けの作業所長B、2次下請けの現場監督Cの3名である。
労働者死傷病報告の提出義務は、負傷した労働者Dが所属する3次下請け(株式会社YAMATO)である。
なぜ2次下請けの2名まで被疑者として書類送検されたのか。
労基署に確認すると、
「提出義務は雇用主の3次下請けにあるが、今回の労災隠しの首謀者は、2次下請けの現場監督Cであった。
被疑者Cが主導して、何名も関わった労災隠しがあったと判断したため、
2次下請けの作業所長であるBも関係者として書類送検した」
とのこであった。
ちなみに、労基署のプレスリリースには無いが、元請けは日立GEである。
東京電力は何も把握せず
労基署が公表した作業状況は下記である。
ちなみに、2022/2/17に発生した休業2か月の労災の、労働者死傷病報告が提出されたのは2023/11/15である。
労基署によると
「発覚しなければ、隠し通すつもりだったのでしょう。
上手く隠すことができず、仕方なく出したのがこの日付だったということです。
『遅滞なく』出さねばならない死傷病報告を、1年9か月も経ってから提出したのです」
この転倒した階段はどこなのか。
元請け、日立GEのこの作業は、いったい何だったのか。
労基署が書類送検を公表したのは2024/7/18の14時であるが、7/18の東京電力定例会見では、東電はこの件に関して
「労基署のプレスリリース以上のことは何も把握していない」と繰り返すのみであった。
筆者がこの公表を知ったのは労基署の発表直後の14時過ぎである。
そこから過去の不適合や過去の負傷情報などを調べても、該当するものが無かった。
東京電力がこの労基署の書類送検を知ったのはいつか?と問うと
「14:08には労基署から当社(東京電力)にメールで通知がきており、そのときに知った」
会見まで3時間近くあるのに、東電は「何も把握していない」を繰り返すのみであった。
不適合も公表なし
東京電力は、福島第一原発構内で負傷者が出れば、随時、下記のような形で「不適合」として公表している。
筆者は2022/2/17近辺の負傷を調べたが、該当するものはなかった。
隠されていた労災なので、当然だろう。
では、東京電力は労災の公表でこの事故を初めて知ったのか、
元請け、日立GEからこの負傷を連絡を受けていなかったのか、と問うと
「2023/10/5に元請け(日立GEから)連絡を受けた。」
とのことであった。
そのあたりの不適合でも一切、公表は無い。
日立GEから報告を受けた時点でなぜ、公表しなかったのか、問うも明確な回答はなく「確認する」
福島第一原発構内で負傷者が出た場合、ER(緊急医療室)に連絡を入れることになっている。
ERは東京電力が運用しているため、その時点で構内での負傷者を東京電力が把握できる仕組みでもある。
この労災隠しの案件が、当時、ERの利用はあったのか問うと、
「ERの利用歴はない。ERを使用していなかったものと判断している」とのことであった。
救急車を使用せず、社用車を使用して福島第一原発構外に出る、という労災隠しも過去にはあった。
だからこそ、軽微な負傷でもすぐにERに報告するように、と何度も指導しているが、実は労災隠しは後を絶たない。
富岡労働基準監督署より、依然として労働災害を正確に報告するという認識が
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/369549.pdf
全ての関係請負人及びその労働者に徹底されているとは言い難い状況が認められる、とのご指摘。
この際は、エコーBOX(福島第一原発構内にある、投書箱。匿名で様々な投書ができる)に、情報提供があったことから東京電力が状況を発覚した。
しかし、今回の労災隠しは、東京電力が一切、状況を把握しておらず、
また、元請けから情報提供を受けた後も、何も情報を公表しておらず、
第一報が労基署の書類送検という異例のものである。
筆者の福島第一での取材の経験では、事案が発生してから、労基署が書類送検するまで、通常、1~2年かかっている。
福島第一原発で何かしら問題が発生し、いったんそれが東京電力から公表され、
数年後に労基署の捜査が終わってから、明らかな法律違反があり悪質性が高ければ、書類送検になるという形であった。
今回のように、労基署の書類送検が情報の初出であり、またその後の会見で東京電力が
「情報を把握していない」と繰り返すのは筆者は初めての経験であった。
少なくとも、元請けの日立GEから連絡を受けた2023/10/5時点で、
東京電力は何も情報収集をしなかったのだろうか。
たびたび労災隠しが発生している福島第一原発を所管する東京電力として、
あまりにも対応が遅すぎるのではないだろうか。
(ちなみに、2023/10/25に、増設ALPSの洗浄作業中に、
汚染水をかぶり福島県立医大に2名が救急搬送された事故が発生している。
その後も、様々な事故が相次ぎ、原子力規制委員会から厳しい叱責を受け、
今年の5月に作業一斉安全点検をおこなっている。
日立GEから労災隠しの報告を受けても、対応どころではなかったのだろうか??)
時系列
・2022/2/17 右足首骨折、休業2か月の事故が発生
・2023/10/5 東京電力が、日立GEから報告を受ける
・2023/11/15 株式会社YAMATOから、労働者死傷病報告が提出される。
・2024/7/18 労基署から労災隠しの書類送検が公表される。(同日、東京電力が会見にて「情報を把握していない」を繰り返す)
考察
負傷者はどのような作業をしていたのか。
休業2か月の負傷をしたまま、どうやって福島第一原発から構外に出たのか。
(福島第一原発を出るには、線量測定のサーベイを受けたり、装備を変えたりなど、
様々なチェックポイントがある。
一人で立ったまま、全身のチェックを受けるゲートもある。
どうやってそこを通ったのか??)
この労災隠しの発覚は、何がきっかけだったのか。
複数の疑問に、東京電力は何ひとつ回答を持っていなかった。
会見後のぶら下がりで「みなさんの関心が高いので、今後の会見で情報を出していくと思います」とのこと。
当たり前である。
関心が高いから、などではない。
福島第一の労働安全を担保する事業者として、情報を把握し、公表していくのは義務である。
今後も、情報を随時、追加していく。
また、読者の皆さんも、ぜひ会見に注目してほしい。
月曜木曜の17時から、福島第一原発に関する東京電力定例会見がある。
下記のリンクから、筆者の中継配信が見られるので、今後の会見にも関心を持って頂きたい。
https://twitcasting.tv/makomelo/show/
福島第一原発事故の注目が薄れ、関心が低くなり、もっとも被害を被るのは現場の作業員の方々である。
労働安全がおろそかになり、事故が相次いでいる現状、ぜひ関心を持って、監視して頂きたい。
福島第一の労働安全が担保されることは、周囲の安全も担保されることであり、
ひいては社会の安全が担保されることと同義である。
(引用する際は、リンク掲載をお願いします)
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