伊勢志摩サミットの期間、5月26-27日は、福島第一原発の作業を停止する。
停止する作業は1号機のカバー解体や、フランジタンク解体、汚染水の移送作業などである。
原発事故以降、福島第一原発の作業を止めるのは三回目である。
一度目は2015年1月。
福島第一原発、第二原発、柏崎刈羽原発で重大な労災事故が多発し、全作業を中断して安全総点検を実施した。
二度目は2015年8月。
3号機使用済み燃料プールから燃料交換機を引き上げる際、危険が伴うため、1F構内の作業を停止した。
(関連記事:3号機SFPの燃料交換機の引き上げは不発弾処理と同じ!?)
そして今回である。
一度目と二度目の、福島第一原発の作業停止の理由は、原発構内が原因である。
今回の伊勢志摩サミットでの作業停止は、外部、三重県でのイベントが理由である。
5月15-17日は茨城県つくば市で、科学技術大臣会合があり、
5月20-21日は宮城県仙台市で財務大臣・中央銀行総裁会議がおこなわれるのだが、
そちらは福島第一原発での作業は停止しない。
伊勢志摩サミットの大臣級会合では、より福島第一原発に近いところだが、停止はしないとのことであった。
廃炉の様々な計画が、遅れていっている現在、福島第一原発の作業を止めることはめったにない。
死亡事故が相次ぎ安全総点検が必要だったとき、そして危険な作業が伴うとき、という2回の作業停止の理由はわかる。
なぜ、伊勢志摩サミットで作業を停止するのか。
「世界の要人が集まるから」なのか。
では、住み続けている日本国民、そして近くに住む福島県民はどうなのか。
筆者は、サミットでのテロ対策なのかと考えていた。
実際、読売新聞と東京新聞の2社は、テロ対策で廃炉作業停止、という記事であった。
しかし、東京電力は「テロ対策ではありません。公式発表として、テロという言葉は使っていません。」とのことである。
では、テロ対策でなければ、なぜなのか。
今年3月ベルギーのブリュッセルで爆弾テロがあった際、同時に原発が狙われていたことも記憶に新しい。
原発作業員が殺害され、IDカードが奪われていた。
その際、最低限必要な原発運転員だけ残し、他の原発作業員は敷地から退避させ警戒にあたったという。
なので、筆者は、伊勢志摩サミットの際、テロを警戒しての作業停止、作業員の数を減らすということか、と当初考えた。
福島第一原発の作業員に取材したとき、ある下請けの採用の際の自己申告の調査を聞いて驚愕したことがある。
あなたは反社会的勢力に属していますか? はい・いいえ
あなたはテロ組織・過激派に属していますか? はい・いいえ
あなたは政治に批判的な信条を持っていますか? はい・いいえ
あなたはテロ組織・過激派に属していますか?→はい、と回答する人間などいるのだろうか?
この調査は全ての協力企業で行っているわけではない。
下請け会社だと、「身元調査」は行われないことのほうが多い。
実は、原発作業員の「身元調査」は主要な原子力利用国の中で、日本だけがおこなわれていない。
昨年10月、原子力規制委員会の検討会で、作業員の身元調査、「個人の信頼性確認制度の方向性」の報告書が取りまとめられたという段階である。
原子力規制委員会:核セキュリティに関する検討会
そのような段階なので、伊勢志摩サミットの際、テロ対策として、原発作業を停止して、
必要最低限の作業員のみ敷地内に残す、というのなら、理解できる。ツール
しかし、それは東京電力は頑なに否定し、「何か異常があった際の、情報把握を迅速にするため」と説明を繰り返した。
東京電力は、「通報・公表基準」を作成しており、何か異常があった際は、地元や報道にすぐに連絡をする体制を作っている。
それだけでは不十分なのか。
伊勢志摩サミット期間中に、モニタリングポストや汚染水えいなどの警報が鳴るような作業は停止したほうが、世界に対して体裁が整うということなのか。
伊勢志摩サミットの期間中、福島第一原発の作業を停止するということの、整合性がとれた説明が無い、というのは
福島第一原発の現在の作業に不安が残り、また国民軽視のように、筆者は感じる。
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伊勢志摩サミットに関する東京電力記者会見の書き起こし:
国民より伊勢志摩サミットの方が大切?福島第一原子力発電所の作業停止の理由は謎