4行まとめ
・23日、福島県の検査で診断された甲状腺がんの治療をしている18歳を超えた方々、県外に引っ越しをした方々も、福島県が医療費を負担することが発表された。
・これは通常診療に移行した1,694名のうち、約55%が18歳を超えていると推計し、約900名と見込んだ。
・県外に引っ越しした方々も含むが、この数字には入っていない。
・引っ越し先の自治体で医療支援があったり、生活保護を受けていたりすれば、負担が無いと判断して、福島県の支援対象ではない。
福島県が甲状腺治療費、全額負担。新たに、900人(共同通信)、1000人(NHK)程度を対象に。
6月23日夜の報道で、福島県が、原発事故当時18歳以下だった県民の甲状腺の治療費について、
新たに900人(共同通信)1000人(NHK)程度、追加で支援することが発表された。
900人?1000人?数字はどう試算した?
両記事とも、今年3月時点の検査結果が元となっている。
NHKの記事では、手術が必要だったり、経過観察が必要になった方々が1694名とある。
5月18日に開催された第19回検討委員会の資料から計算すると、通常診療に移行した方々が1694人になるので、このことだろう。
通常診療へ | (通常診療のうち)細胞診 | (細胞診の結果)悪性ないし悪性疑い | |
先行検査 | 1,345人 | 529人 | 112人 |
本格検査 | 349人 | 54人 | 15人 |
計 | 1,694人 | 583人 | 127人 |
現在の福島県が行っている小児甲状腺検診は、何らかの異常が見つかり、経過観察になった時点で、通常診療に移行する。
なので、そこから保険診療となり、治療費が発生すると同時に、福島県の検査の枠組みから外れる。
しかし、現在、福島県では、18歳以下の治療費は無料となっている。(甲状腺疾患以外でも)
今回の措置では、19歳以上でも、福島県以外に居住していても、この福島県の検査で診断された甲状腺の異常に対しての治療費を負担する、ということだろう。
では、この900人(共同通信)1000人(NHK)という試算はどこから出てきたのだろうか。
その他、いくつかの疑問を福島県庁の担当課に取材した。
通常診療1,694名の約55%(18歳以上)で約900名
福島県庁、県民健康調査課、小谷氏に伺った。
ーーこの昨日の発表は、どこで議論され、どこで決定されましたか?
小谷氏「昨年度2月、つまり今年の2月の県議会で、18歳を超えても医療費を無料にするべきでは、と質問され、県として、新年度早い時期に盛り込みたい、と回答していました。
昨日の議会で、7月上旬にも開始することを予定している、と答弁し、合わせて、県政記者クラブにも情報を出しました。」
※※※昨年度2月定例県議会(2015年2月)を調べた。抜粋する※※※
渡部譲議員(質問日2月24日)http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/gikai/201502d-watanabeyuzuru.html
検査の結果手術等の治療が必要となったことにより、19歳以上の県民については新たに医療費の負担が生じることとなっております。そこで、県民健康調査の甲状腺検査の結果生じることとなった医療費を公費で負担すべきと思いますが、県の考えをお伺いいたします。
回答:保健福祉部長、鈴木淳一氏
甲状腺検査に係る医療費につきましては、これまで県民に負担が生じることのないよう国に強く要望してきたところ、今般国の新年度予算案に県民健康調査を支援するものとして必要な経費が計上されたところであり、今後具体的な支援方法等について検討を進め、新年度早期に支援を実施できるよう取り組んでまいりたいと考えております。
宮本しづえ議員(質問日2月25日)http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/gikai/201502d-miyamotosidue.html
原発事故当時十八歳以下だった全ての子供を対象にした甲状腺検査は長期にわたり継続する必要がありますが、18歳を超えると医療費の負担が出てくるという問題があります。18歳を超えても医療費を無料にすべきですが、県の考えを伺います。
回答:保健福祉部長、鈴木淳一氏
甲状腺検査に係る医療費につきましては、これまで強く要望してきたところ、今般国の新年度予算案に必要な経費が計上されたところであり、新年度早期に支援を実施できるよう取り組んでまいりたいと考えております。
ーー共同通信では900人、NHKでは1000人という報道の数字に違いが出ておりますが、これはどういった試算なのでしょうか?
18歳を超えた方々と、18歳以下でも県外に引っ越された方々を含む数字なのですか?
小谷氏「これはかなりラフな推計なのです。
悪性ないし悪性疑いの方は127名、そのうち18歳を超えた方は70名ということは、県に県立医科大から報告された資料からわかります。
つまり、127名のうち約55%が18歳を超えているということです。
通常診療に移行した1,694名の約55%は約900名なのです。(筆者計算、1,694×0.55=931.7)
こういう考え方をした荒い試算ですので、正確な数字ではありません。」
ーーではNHKの1000人というのは…?
小谷氏「NHKさんは、900名の数字に悪性ないし悪性疑いの70名を足してしまったのではないかと思います。
しかし、この70というのは900の内数なんですよね。」
ーーこの通常診療の中に、細胞診や悪性ないし悪性疑いは全て含まれていますよね?
小谷氏「そういうことです。それを少し勘違いされたんだと思います。」
※※※悪性ないし悪性疑い127名のうち70名が18歳以上という資料を調べた※※※
第19回検討委員会資料より。
先行検査の二次検査時点の年齢による分布から、18歳以上は63名。
本格検査の二次検査時点の年齢による分布から、18歳以上は7名。
合算して70名になる。
どのような方々が対象者になるか??
ーーこれでは、18歳を超えた方々のみの推計ですが、18歳以下で県外に引っ越された方々も対象になりますよね?
小谷氏「はい。しかし、支援が必要、とされた方々のみになります。」
ーーどういうことでしょうか?
小谷氏「生活保護を受けている方、もしくは引っ越し先で、子どもの医療費無料という自治体のサポートがある地域もありますので、
そのような方々は、負担が発生していない、ということで、福島県による支援はありません。」
ーー今回、新たな支援対象者の方々に、診療データを提出を求める、とありますが、診療データを提出しなければ治療費を支援しない、ということはあるのでしょうか?
小谷氏「そうですね、そもそも支援対象かどうか、甲状腺治療をされているかどうかの確認の意味で、診療データの提出を求めています。」
ーーなるほど、では、現在、県内で治療されている方々の診療データはどうされておられるのでしょうか?
小谷氏「県内の方々は、県のほうでは提出を求めていません。しかし、検討委員会の委員の方々が、集めてくださっている状況です。」
調査だけでなく、今できる対策も
県の検査で診断され、甲状腺がんの治療をしている18歳を超えた方々も新たに、福島県が医療費を負担する、
18歳を超えた方の人数比率は、悪性ないし悪性疑いと診断された方々の比率から推計しているとのことであった。
今回、福島県の発表、新たに治療費支援の対象者を拡大することは、非常にありがたい対応だと思う。
現在、福島県の小児甲状腺がんの有病率が高い、診断数が増えている、ということは疫学者たちの共通の認識である。
しかし、それが原発事故と因果関係があるかどうか、となると、
「被ばくとの因果関係を検討するのは早急。因果関係を明確に否定することも難しい」
というのが現在の結論のようである。(筆者が入手した資料による)
「今後、調査を続け、低線量被ばくの影響を調べることが重要」ということなのだが、
調査だけではなく、今とることができる対策が無いかも検討してほしいと切に願う。